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第九話 先輩後輩ごった煮戦線
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しおりを挟む休日出勤を終えた日曜日の夜。
九時前に帰宅した俺は、出来合いの弁当で夕飯を済ませ、風呂に入って待機していた。
出張明けの今日は帰りが遅くなるだろうが、それでも三初は帰ってくるだろう。
だから、あの山のような雑務に蹴りをつけたイイ報告のために、俺は疲労困憊のまま待機していたのだ。
あくまで報告のためである。
俺だって土日がうまくいったか聞きたいので、つまりそういうこと。
他意はない。なにもない。全然ない。
リビングのソファーに座ってテレビを見つつ、誰にとも言えない言い訳をした。
──……までは、覚えている。
そこから先は記憶になく、気がついたら暗転。正しくは、寝落ち。
「ん……、……ん、ん?」
結局、目を覚ますと室内は太陽光をたっぷり取り入れて、明るくなっていた。
んん、と瞬きをする。
後頭部に固いものが当たった。カーペット越しの床だ。俺はソファーから落ちて床で寝たのか。
気温が上がり始めてからベッドで使っているガーゼケットが、体にかけてある。
見覚えのあるネイビーのものだ。
そうそう。いつも朝起きた時にも、これを被って──。
(……朝? 今日は、月曜日……)
理解した瞬間、ガバッ! と起き上がる。
「ち、遅刻ッ!?」
「しませんよ」
しかし、悲鳴のような声を上げて起き上がった俺に、待ち人の呆れた否定が入った。
首を声のほうへ向けると、キッチンからエプロン姿の三初がのんびりと歩いて近づいてくる。
「は? え? 時間……」
「十時過ぎてますが、今日は前もって休み取っといたんでね。おはようございます」
「おう、おはよう。ってかテメェなに勝手に俺まで申請してんだッ! この時期に休み取るか普通!」
「まーまー。目覚ましと今度はアラームもちゃんと切っておいたんで、よく眠れたでしょ?」
「肝が冷えたわッ!」
ソファーの背もたれに身を乗り出して見下す三初に、俺は頭をガシガシとかきながら唸った。
ケッ。一週間ぶりに会ったってのに、なんの感動もありゃしねぇ。
いやいらねぇけど、こういうのは気分的に、だ。
有休を自主的に使うことが滅多にないので構わないのだが、無駄に焦ってしまった俺の心をもう少し慮ってほしいものである。
しっかりと眠ったおかげで、頭はすっかり冴えていた。
疲労もそれなりに回復している。
文句もあったが起き上がってガーゼケットを綺麗にたたみ、ソファーに置いて、俺は顔を洗うために洗面所へ向かった。
身支度を整えてリビングに戻ると、エプロンを外した三初が朝食の並んだテーブルに着いてた。
今朝のメニューは目玉焼きにウインナー、キャベツとトマトのサラダ。ご飯とみそ汁に、キュウリとナスの浅漬けだ。
帰りが遅かったはずなのにマメな男である。
申し訳ない気がして三初をうかがっても、全く苦にしていなさそうな顔だった。
最強かこいつ。眠気も感じねぇ。普通にカフェイン摂取してやがる。
自分の交際相手で後輩だが、規格外の男だ。
三初のスペックは無視することにして、俺好みの献立にひそかに胸を躍らせながら向かいの席に着く。
(あー……二ヶ月の呪い、やべぇよな)
いただきますと手を合わせてから、こうして話しながら食事ができる久しぶりの朝の日常に、俺は内心で少し浮かれた。
息吐く間もない新生チームによる混乱や仕事のピークなら、受け持ちの仕事をどうにか終わらせた昨日が最後だろう。
けれど今、〝やっとゴタゴタが落ち着いたか〟という実感が湧いてきたのだ。
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