404 / 454
第九話 先輩後輩ごった煮戦線
28
しおりを挟む「な、やっぱ一度キレたほうがよかったよな。なんとなくわかってたんだよ。俺が気ぃ使ってるせいで舐められてっから、雑用全部一人でやってんなって」
『当然でしょ。社会に出たことのない学生バイトなんて、業務上の注意も先生の小言がうっとうしいっていう学生気分なんですから』
「言うほど俺もできてないから、引いちまった」
『や、そいつらのができてないんで』
「ふはっ、それは盲点だったわ」
『これだから仕事しか見えてない社畜は』
七月に入ったばかりの生ぬるい夜の空気が、清涼な山の空気のように感じた。
優しい言葉をかけられたわけじゃない。
それでも、あんなに胸につっかえて処理に労力を使っていた息苦しい問題が、仕事で嫌なことがあった、という過ぎたことに変わる。
通話を終える段になると、もうすっかり複雑な心境はクリアになっていた。
『先輩の代打、俺なんで』
「まぁな。そんな気がしてた」
『俺のデスク、今えぐいんですが……ま、いつも通りに分けてあります。先輩は見たらわかるでしょ? わかんなかったら置いといて』
「は? お前がそんなギリで仕事とか、珍しいな」
いくら仕事が多い役柄とはいえ、積み重なるほどギリギリだとは思わず、首を傾げる。
すると三初は煮え切らない相槌を打ち、理由をごまかした。
『んー……今までは誰かさんが意外と俺のやり方にピッタリついて来てたもんで、ね……結果、俺のやる気と効率的な問題で、こうなりまして』
「年季が違うだけだろ。三年半一緒にやってりゃ、どっかの暴君様のやり方ぐらい覚えちまうんだよな」
『ありがたやありがたや』
「もっと気持ちを込めろ」
適当な感謝を告げられ、バッサリ切る。
よくわからないが、俺と三初は互いの問題を交代することになったようだ。
コンビだった時はなかったことである。
「とりあえずわかった」
『じゃ、俺は今からそっち向かうんで……会うのはやっぱり?』
「出張後」
『くくく。でしょうね。そゆとこイイと思います』
「言ってろ。お前もそのつもりだろ」
『あら、バレてる』
「フン。……じゃーな」
『はい』
最後の最後まで軽口を叩きあい、通話を終える。
会話がなくなりエンジン音だけが聞こえる車内に、ほんの少し寂しさが残った。
凹んでいた時に声を聞いたから、なおさらだ。
そういう勘のいいところ、というか、俺の性格を理解しているところを感じると、好きになってしまう。
「…………」
今からこっちに向かう三初と今から帰る俺が示し合わせれば一度会ってから別れることもできるが、そんなつもりは毛頭ない。
中途半端に会うほうが、離れる時に堕落する気がしたからだった。
全て終わってから気兼ねなく二人でダラダラする。当初の目的を変えるつもりはない。
まあ、どうせアイツも同じ理由に決まってる。
それでも名残惜しいスマホをポケットにしまおうとした時──メッセージを受信して、首を傾げた。
そのまま何の気なく、光った画面を見る。
『やっぱり恋人らしく、おやすみのキスくらいはしておいたほうがよかったですかね?』
──ゴン、と反射的に突っ伏した。
初めと同じく無言でハンドルに額を預けた俺だが、顔色には多大な温度差があったということは、自分だけの胸に秘めておくことだ。
十分後に『ンなとってつけたような甘みはいらねぇ』と素っ気なく返したけれど、バレたかどうかの勝率は五分だろう。
「アイツ、マジで、くそが……っ」
やけくそ気味にスマホの通話口へチュ、と唇を落としてから、俺は車を発進させた。
20
お気に入りに追加
1,377
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
市川先生の大人の補習授業
夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。
ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。
「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。
◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC)
※「*」がついている回は性描写が含まれております。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる