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第九話 先輩後輩ごった煮戦線
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しおりを挟むあの時かかってきた電話は、クレームを受けた母体──山場さんからの確認の電話だった。
内容は、俺について。
店頭でのやり取りを通りすがりに見ていた客の一人が、〝客前に出ている接客スタッフとして、客に対する態度が乱暴だったんじゃないか〟と、母体に連絡したらしい。
どういうことか、という確認だったので、俺は迷子を見つけてから起こったことの顛末を説明したのだ。
山場さんは俺の説明を信じてくれたし、連絡をした客も怒っていたわけじゃない、と言ってくれた。
客を恫喝するような男に見えてしまったために、問題が起こるのでは、と案じただけだ。
『私は御割さんとお話したことがあるので、乱暴な人ではないとわかっているのですが……』
けれど、電波を伝って苦笑いを混じらせた言葉の先は、言われなくても理解できる。
人の多い日だったのでたくさんの人に目撃されてしまったことも、目撃されたタイミングも悪かった。
理解してしまうと、これ以上は意地を張れない。
やる気と負けん気や意地だけで強行していい段階を過ぎてしまったのだ。
今回の仕事に対して、この事件はきっかけに過ぎず、たった二人のスタッフとすらうまくやれない俺に問題がある。
こうなったら、もう他の人と代わったほうがずいぶんマシ。
それほどの大失敗だった。先を見越した、総合点を踏まえての大失敗である。
急ぎの件として連絡を受けた部長や、山場さんはそうは思っていなかったが、俺自身が俺を許せない。
その日の業務が終わった後、俺は竹本にメンバー交代の旨を伝えた。
「もう本社から許可は出てっから。引継ぎメモは置いて閉めてきたし」
「え、えっ」
「残りの二日……勝負所の土日は、俺の代わりに誰か適任のやつがくるってよ。代打は明日の朝に間に合うようにこっちきてるらしいから、俺は入れ替わりで、今から戻る。明日から休日出勤でそいつの仕事をする」
「いやいやいや、いやっ」
ホテルで荷物を片付けながら言うと、竹本は目を丸くして手を左右に振る。
「理にかなってっけど、誰がくるかによって俺のメンタ、じゃねぇ。俺は御割で不満ねぇよ? お前めちゃくちゃ段取りもメニューとかシステムも覚えてくれてたじゃねぇか。スゲェ楽、じゃなくてスゲェありがたかったし……!」
竹本は窓際の椅子から立ち上がり、俺に歩み寄った。
ちょこちょこと気になる失言が目立つが、それが竹本なので俺は特に眉間にシワも寄せず、淡々と荷物をまとめ終える。
カーペットの上に広げたキャリーケースをバタンッ、と閉めると、すぐそばに立つ竹本がしゃがみ、俺の肩を恐る恐ると叩いた。
「俺の元コンビの鈴木田とか、メッセ見る限り全然追いつけてねぇって死んでたぜ?」
「誰だって最初は焦るだろ」
「でもさっ。予想外の客数で俺があっちこっち走り回ってもなんとかなってたのは、お前が俺の資料とかちゃんと読んで覚えてくれてたり、先輩に聞いたりしててくれたからじゃん。勝負所で交代とか、悔しいだろ? な?」
しゃがみこんでいた竹本は、いつの間にか正座している。
竹本は俺を片割れとして、このまま土日を迎えたいらしい。
俺を説得、いや勧誘か。引き留めるべく、あれこれと語ってくれる。
けれどいつも通りの仏頂面な俺の気持ちは、ちっとも変わらない。
盛大に溜息を吐いてからジロリと睨むと、竹本は途端に背筋を伸ばして肩をポンポンと叩いていた手を引っ込めた。
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