誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第九話 先輩後輩ごった煮戦線

07

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 それからどうにか準備をきちんと終わらせた後、母体が開店し、数時間が経過した頃だ。

「すみません。チラシのクーポン使いたいんですけど」
「かしこまりました。恐れ入りますが一度お預かりして、切り取らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい! 大丈夫です」
「担当さん! バニラのAストックなくなりました!」
「あ!? あぁ~落ち着いたら一気に追加取りに行くんで、メニューとケースに売り切れ立ててください」
「レジヘルプお願いしまーす!」
「はいッ」

 休みが近いこととまさかのテスト週間で学生が多く、人のごった返す店頭には、行列が発生。

 理由は不明。
 理由を探る時間も余裕もなしッ!

 予想以上に反響があったせいで、現場は俺と竹本と販売員二人をもってしても、ギリギリの状態だった。

 クソ、まったくもって原因不明すぎる。

 話題性や諸々を加味した予測ではこうも盛況になることを考えていなかったので、販売員は一日を通して二人しか頼んでいなかった。

 おかげで補充や声掛け、買い出しを担当するはずの俺も、販売員として駆り出されている始末だ。

 しかも竹本はデータを取ったり本社連絡をしたり、他に準備や対応があるので、ずっとここにいるわけじゃない。

 となると、実質動けるのは三人。

 実演する暇があるわけなく、作り置きの夏味トポスアイスと夏味トポスその他を売りさばくので手一杯。

 そしてこの二人の販売員、実は喫茶部門のただのアルバイトらしい。

 つまり全部俺の指示待ちだ。
 地獄である。嘘だろオイ。

 ガチガチとほぼ使ったことのないレジを打って、対応する。

 チクショウ、これ終わったら練習だな。
 練習で今日のリサーチ時間失せちまった。

「担当さん! このアイスってアイスミルクですか? アイスクリームですか?」
「担当さぁん! ここから一番近いトイレどこっすか! 後クーポンお願いしゃす!」
「あぁッ、はい! アイスクリームです! トイレはそこ真っ直ぐ行って輸入雑貨店の横の道曲がったとこですッ」

 引きつった下手くそな笑顔で急ぎ返答すると、販売員二人は青ざめ、そそくさと戻っていく。

 客の前でバタバタするわけにはいかないので小声だが、ついつい早口で返答してしまった。
 怒っていると思われているのだろう。

 神がいるなら取り急ぎ今だけ俺の顔をにこやかにしてほしいと、平身低頭頼みたいくらいだ。

「御割! レモンまだ二箱あんのに棚出てねぇ!」
「了解ッ! メロンのイチゴ売上はッ?」
「目標の半分! クーポン使用率七十でリピートいまいちだから、客数で考えると売上微妙かも……っ」
「くっ、けど今は実演すらできてねぇし、呼び込みも工夫もしてる余裕ねぇから、このピーク乗り切ってからだッ」
「わかった! 俺母体行ってくるけど、御割、その笑顔控えめに言ってタカりのチンピ」
「人の全力の接客スマイルをチンピラ呼ばわりしてんじゃねェぞコラァッ」
「ヒェェ……」

 コソコソと衝立で作ったバックでやり取りすると、竹本は震え上がってノートパソコンを抱え、逃げるように出かけていった。

 残された俺はフン、と鼻を鳴らし、さっさと在庫のレモンスカッシュ味のトポスを一箱抱えあげる。

「……。……つか、俺ってそんなに笑うの下手くそか?」
「担当さん!」
「担当さーん!」
「はぁいッ」

 ──その日は閉店後、こっそり鏡を見ながら、笑顔の練習をした俺であった。

 ついでに女性客にはもれなく開幕目をそらされていたってのも、付け足しておこう。




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