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第九話 先輩後輩ごった煮戦線
05
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大人は恋をするにもプライベートを充実させるにも、まず仕事をこなさねばならない。
人生を彩るために仕事をしているのに本末転倒な世の中だが、だからこそ仕事にやりがいを見つけて取り組む。
新コンビの始動に際して準備期間に引き継ぎを作成し、マニュアルを用意して、俺と三初の仕事は新人コンビに明け渡した。
一番大変なリサーチやら下準備やら計画やらを終わらせているので、これは経験を積ませるためである。
なにかあったら聞けと言ってあるしな。
俺なりに激励の意味を込めて、引き継ぎの時に「頑張れよ?」と肩をポンと叩いた。
なぜか二人とも青ざめて吃りながら硬直していたが、理由は不明である。
ちなみに正解は『死ぬ気でやれよ。ミスったら殺すぞ』という副音声が聞こえていた、だ。
その時の俺は昔馴染みの冬賀や無敵の三初と接していて、最近自分の顔が怖いということを忘れていた。
目つき、口が悪い。ガタイがいい。声が低い。笑わない。無愛想。
頭一つ分小さい新入社員にウルトラコンボが決まっていることに、ちっとも気づいていなかったのである。
そしてそのおっかないレッテルが貼られた俺は、竹本に渡された資料やらなんやらを熟読。
概要を覚えて自分なりに調べたり、不慣れな仕事に備えることで、忙しい。
会社には学ぶ環境や先達はいるわけだから、それを生かさないなら俺は無能だ。
おかげで新コンビ始動を前に、俺と三初はゆっくりする時間なんてなかった。
残業代や手当は出るけど、それでも頭が爆発しそうになる。
三初なんて、まったく新しい役職を与えられたのだ。こいつは俺より大変。
事務に任せられない仕事の雑用係であり、あちこちと企画を持ち寄り自社や外注と戦う俺たちの、総括でもある。
元々課長や部長を絶妙に手助けして融通を利かせたり、空き時間にダラけるために全体の進捗を把握していた三初だ。
総括は向いている。
だが割り振りの改められた総括の仕事量は、膨大。
普段から仕事が早いのも正確なのも下準備あってこそ、という三初は、その下準備に追われている。
後で楽をするためには、今苦労しなければならないらしい。
部屋で唸る俺と、入るなと言われた書斎にこもりっきりの三初とは、家であまり顔を合わせなくなった。
食事の時間も合わないので、出来合いのもので各自済ませる。
でも俺が菓子パンばかりかじっていると、三初はそれに気がついたようだ。
資料を読みながらメモをしていたせいで目が痛く、ココアをいれようとキッチンに行った。
「あ……」
いつの間にか、具沢山の野菜スープが入った鍋が置いてある。
そして冷蔵庫には、プリン。
ずるいだろ?
そんなことをされたら、余計にあのまったりとした時間が恋しくなる。
職場でも俺は竹本と一緒に行動しているし、三初は山本と行動しているから、尚更だ。
二人っきりであまり会えてない。
なのに、俺が食べてるものまで見てるか? 普通。なんだアイツ。
(ケッ、目ざとくて、いちいちムカつくぜ)
俺はスープを食べた後不格好なおにぎりを握って、ラップをかけて置いておいた。
「コーヒーばっか飲んでんなよ。アホ」
勝気に笑って、おにぎりに吐き捨てる。
俺の小言ごと食いやがれ。
スッキリとした頭で、俺は再度部屋で過去の資料を見ながら、傾向を学んだ。
今こうやって基礎を叩き込んで企画を乗り切れば、次からは余裕ができる。
そうしたらまた、文句を直接言い合いながら共に食事ができるだろう。
ま、もうちっとだけ頑張るか。
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