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第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ
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しおりを挟む「真面目にどうでもいいんだけどなぁ……」
「うっせぇな。どんなにテメェが気にしてなかったり、悪かったりしても、テメェを贔屓して気にかけるのが彼氏様ってもんなんだよ」
「恋愛脳? 乙女ですね、先輩」
「ほざけ。俺に恥をかかせてねぇで、自分の話をしろってんだッ」
ガルルルッとつい唸り声をあげる。
好きでこんな必死に恋してるわけじゃねぇわ! 気づいたら沈んでたんだよドブにッ!
どんどん拗ねていく俺を笑う治りかけの三初は、機嫌がいいらしい。
ちゃんと話を続けてくれたが、その話はなんとも言えないものだった。
「恋ってほどじゃないですが、俺は昔、先輩とは真逆の人に懐いたんですよね」
「真逆?」
「そう。温和で、人がいい。みんなに頼られて好かれる人」
「…………」
喧嘩を売っているのか、と聞くと、全然? と笑われる。機嫌イイなちくしょうめ。
三初の話だと、その昔、三初は家族や周囲の期待を一身に背負っていたそうだ。
勉強もスポーツも一番で、いつも笑っていて、誰にでも分け隔てなく接するパーフェクトな男だった。
それはもちろん仮面だ。
本性はそれもう鬼畜でワガママで気まぐれな三初である。
三初にその仮面を被せたのは父親だったが、教師や仲間もそれを甘んじて受け始めた。
三初じゃないとできないことじゃなくても、頼み事や厄介事の矛先は、どういうわけか三初を初めにチョイスする。
有り体に言えば、利用だ。
なんでもかんでも、頼りにするという便宜で押し付けるようになった。
詳細は語らず軽く話されたけれど、それはなんとなーく、予想が着いている。
今の三初は理不尽ならば頼み事を全て突っぱねるが、仮面を被っていたなら、それを全て受けていたのだろう。
親に着けられた仮面を、自分で剥がすことはできない。
生まれた時から強いられたことだから、保護下にいる一介の学生では、逆らえなかった。
そんな生活の中。
関わりのある人の中でただ一人、三初になにも押し付けない先輩がいたらしい。
その人が俺と真逆の、温和で人が良くてみんなに好かれる人、という先輩だ。
今ほど図太くなくまだ若かった三初は、気の休まる人を心のどこかで求めていたのである。
故にその人となら自分が相手を抱えるのではなく、支え合う関係を築けるのではないかと考えた。
恋のなりそこないだ。
恋のなりそこないだが──……期待されるばかりだった三初が、初めてそんな期待をしてしまった。
だから人の頼みごとを断れない先輩を庇うため、三初は気持ちをくみ取って、助けることにした。
理由はシンプルなもの。
仕事を手伝うと喜んだから、そうした。
先輩の代わりに断ったり、自分が代わったり、三初なりにどうにか動いたのだ。
結果は──散々。
内容は推して知るべし。
先輩を庇うのか続きを語ってもらえなかったが、結果が散々だと言うのだから、その先輩は三初を便利に使うように変わってしまったのだろう。
おかげで三初の仮面は分厚くなり、二人分の疲労を抱えて、親からのプレッシャーと化学変化で大爆発を起こした。
その先である日突然、ブチッとなにかがキレたのである。
「ま、勝手に下心でやったことだから、あの先輩はなんも悪くはないですけどね。わかったことは、自分からしても、相手に押し付けられても、最後には俺ってものが公共の消耗品になるってことですよ」
「……ハァ~……?」
こってりした内容をあっさりと仕上げて話された俺は、理解不能な不満タラタラの声を上げた。
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