誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ

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 それからはただかゆを与えるだけ与えて、食器を片付ける。

 きちんとかゆを完食した三初には、水分補給もさせながら薬を飲ませた。

 薬を飲んだ三初は布団に潜り込み、丸くなる。やはり猫のようだ。

 今日初めて一人でベッドに入っている姿を見たわけだが、こいつ、弱ってると丸まって寝るタイプなのか。意外だな。

「寂しがりやって言うぜ。丸まって寝るやつ」
「迷信ですね。ゲホッ、は……」

 ポンポンと布団の上から軽く叩いて、早く眠れと気持ちを込める。

 三初はやはり大人しく、ベッドの中から俺をぼんやりと見つめて時折せき込むだけだ。

 苦しげだったのがマシになったが、こんなのちっとも三初らしくない。

(ちょっとかわいいけどな……ずっとはなんか、嫌だってか、んん)

 しばらくじっと見つめていると、寂しいとは違う、妙な物足りなさを感じた。

 風邪をひいた三初は普段と違って大人しいが、そう思うと変な気分だ。

 口さがない三初に苛立つことが多いにも関わらず、早く元気になれと思う。

 庇護欲と慈愛に、胸が満たされている気がした。今なら三初を美環並みに愛護できるくらいだ。

 ゆるりと瞬きをする三初の柔らかな髪をなでながら、不思議な気持ちに浸った。

 鼻の上まで布団に埋まった恋人に、黙って寄り添う。
 こういう時間も、心地いい。

 そうして薄く目を閉じて静かにベッドサイドに座ってから、半時間ほどが経過した頃だ。

「……ふぁ……」

 眠ったかと思っていた三初(が潜っている布団の塊)から、小さなあくびが聞こえた。

 なんだ、まだ起きてんのか。

 もともとほとんど寝ないタイプだったせいか、薬の副作用が効いてもまだ眠れないようだ。

「寝れねぇの?」
「眠いですけど、寒気するんで……そのうち寝ますよ」
「寒気……じゃ、一緒に寝るか」
「…………」

 キュピン、と名案の閃き。

 俺は黙り込んだ布団の塊を放置して、のしのしとベッドに上がった。

 根拠はある。美環が風邪を引いた時、よく抱いて寝てやっていた。

 泣きべそかいて「修にぃ、美環が寝るまで一緒にいてね」とぐずっていたのだ。

 同じように三初も抱いて寝てやれば、すぐに眠くなるだろう。

 俺は筋肉質だから体温がちょっと高いので、湯たんぽに丁度いい。

 そういう思考回路である。
 ……あとはちょっと、からかいたい気分。

 いつもガタイの大小に反して、抱きしめられてばっかだかんな。

 俺がしたって構わねぇんだ。
 今日は俺の天下だしよ。

 モゾモゾと潜り込み、三初を背後からムギュ、と抱きしめ、頭に顎を置く。

 抱きしめた体は思ったとおり、かなり熱かった。関節は痛くないらしいが、インフルだったらどうしよう。

 あまり汗をかかないタイプである三初といえど、肌はしっとりと湿っている。

「問題ねぇよな? 俺だってもともと毎晩ここで寝てるだろうが。だからまぁ、普通だろ」
「ん、んー……? あー……?」
「まぁまぁ、気にすんな。寝て治すのが先だ。日常的な状況のが寝付けるって。な?」
「いや、日常とは体勢が逆でしょ……ゲホッ、ゴホッ」

 チッ、目ざといなコノヤロウ。

 今なら丸め込めると思ったのだが、普段俺が後ろから抱き着くなんてことがなさ過ぎて、悪戯っけを察知されてしまった。



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