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第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ
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しおりを挟む「おい三初、いつまでやってんだ。つか、入ってもいいか?」
ソフトチェリー柄の落ち着いた引き戸を前に、俺は声をかけながらコンコンコン、とノックをした。
けれどじっと返事を待つが、返事がない。
おかしく思ってそっと耳をドアにくっつけると、静まり返った室内は僅かな声が聞こえたくらいで、判別不能だ。
小声? まだ会議でもしてんのか?
でもあれから一、二時間も待ったんだぜ。
なのにダメともイイとも言わねぇって、流石にふざけてるだろ。
ムスッ、と不貞腐れた表情に拍車がかかり、こめかみに青筋が浮かぶ。
「三初ェ……お前な、忙しいのはわかるけどよ、一言ぐらい返事しろ」
苛立ちを堪えて腕を組んでドアに背をつけるが、やはり返事がなかった。
更にピキ、と浮かぶ青筋が増える。
コノヤロウ。釣った魚を水槽に入れたら、もうインテリアの一つだってか。
ふざけろ、亭主関白め。
いや、飼い主関白め。
「~~~~無視すんなッ! 入るからなッ!」
数秒返事を待ったが案の定返事がなく、我慢ならなくなった俺は、バンッ! と勇んでドアを開く。
室内でまず目に入ったのは、右側の壁一面に巡った、背丈が天井まである本棚だ。
そして締め切ったブラインドと、照明。コピー機や機材。それほど広くはない。
一目で目に入るところには三初の姿が見えず、俺は眉間にシワを寄せて小首を傾げる。
だが視線をドア側の壁にズラした途端、書斎机にダラリとつっ伏する三初を見つけて、ギョッと目を剥いた。
「っは!? お、おいっ? どうしたっ?」
「……あー……バレたか……」
俺は慌てて三初に近づき、怒っていたのが一転して様子を伺いながら肩を抱く。
めんどくさそうにする三初だが、抱いた肩が熱い。こいつ、熱があるのか。しかも高い。
それに汗だけじゃなく、体が湿っている。
三初は今朝外に出ていたから、天気予報を外した急な雨にやられ、濡れて帰ったのだろう。
意識がちゃんとあるのを確認してから、俺は椅子を引いて三初を起こし、額に手を当てて目を合わせた。
三初は「触んないでくれませんかね」と気だるげな息を吐いて俺を振りほどこうとするが、無視だ。
「離れてって……まぁ、実は余裕なんで……ちょっと、しくっただけですし」
「はぁ……ったく、完璧風邪だろッ。お前、なんで濡れたなら風呂入って着替えねぇんだよッ」
「あー……急に会議出ろって言われたんですよ、ね。一時間半ぐらいで終わったし」
「お前が引きこもってからとっくに三時間以上経ってんだよアホッ」
頭に響かないよう小声でキレつつ、椅子から三初の体を抱き上げる。
いつもされてるらしい、子どもを抱くような抱き方だ。
当然自分で歩くと言われるが、それも無視する。うるせぇ黙れ、クソ病人め。
「屈辱的だわ……」
「ヘロヘロのくせに俺に文句言ってんなッ」
容赦なくズカズカと歩いて寝室へ向かい、そのままベッドに三初を下ろした。
その途端、三初はバタンキューとベッドに倒れ、言わんこっちゃないと鼻を鳴らす。
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