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第七.五話 暴君カレシの尽力
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しおりを挟む「それってつまり、この世界をよく知らない素人のシュウちゃんが油断して、悪い男にうっかり引っかかるのが心配だから、慌てて迎えにきたってことでしょ? すごーく焦ってるじゃない?」
「…………」
「キレイちゃんがシュウちゃんにちょっかい出して、ベッドルームに連れ込んだってわかったから、怒ったのよ。それは大好きなシュウちゃんに、キレイちゃんが酷いことをしたからでしょ? ブチギレよ?」
「…………」
「ということは、シュウちゃんが知らない間に傷つけられたら、彼もクールじゃいられなかったのよね?」
「…………」
全容を聞かされ、俺はその場にやおらしゃがみこみ、俯いたまま頭を抱えた。
全ては三初が怒っているその場にいた上で、第三者であるナーコにしか出せない見解だ。
曰く三初は、浮気するかもしれないとか、勝手なことをされたからとかの心配ではなく、俺が食い物にされることを心配して、ここまでやってきたらしい。
そしてナーコが見ているのも気にせず間森マネージャーに蹴りを入れて尋問したのは、俺に手出ししたマネージャーに、平静を保てないくらい怒っていたかららしい。
俺には淡々とキレてたくせに。
朝だって、なんでもない顔してたくせに。
「う、嘘だろ……」
「ホントよ~」
「じゃああいつ、それを俺に言えよ……!」
照れ隠しに文句を言うが、体の熱はちっとも冷めなかった。
嬉しいのか、俺は。
悔しいけど、嬉しい。クソ、ムカつく、嬉しい。クソ……っ!
赤くなった顔を隠す腕まで真っ赤に染まり、全身が悶えそうな感情に満ちていく。
「うふふ。シュウちゃんが寝てから挨拶に来た時は、嘘みたいに涼しい顔したスマートないい男だったけどねぇ~」
「好きの一言も言いやがらねぇくせに……」
「それが崩れるんだから、愛よねぇ~」
「俺に見せなきゃ意味ねぇんだよ……ッ」
熱くて熱くてたまらず、顔を隠したまま悪態を吐くことしかできない。
ナーコが茶化すが、構わずだ。
素知らぬ顔をしていた三初の一面を人づてに聞かされるなんて、思いもよらない出来事すぎた。
恥がすぎた俺はついにカウンター席テーブル下に潜り、ナーコから隠れる。
ナーコは「シャイな子だワ~」と笑い、店の奥へと消えた。用があるのだろう。
そうして一人になった店内にいると、不意にポケットに入れていたスマホが震え、着信を知らせた。
未だ熱の引かない顔のままモソモソと動き、スマホを取り出す。
画面には〝三初 要〟の文字が表示された。タイミング良すぎかコノヤロウ。
「……なんだよ」
『真のお母さんがタケノコくれたんですよ。今日しこたま春巻き揚げるんで、夜集合ね』
「おー……揚げ物だけだとそんな食えねぇぞ」
『おっさんだなぁ。バター醤油焼きとカラシ味噌炒めしますが』
「まだ二十代だぞコラ。……たけのこご飯は」
『うわ、先輩の口からたけのこご飯って出るとなんかウケる』
「うるせぇ、ほっとけ。もっと似合わねぇこと言ってやろうか? あ?」
『いいね、言ってみてくださいよ。例えば?』
「…………あったかごはん?」
『ウケるわ』
「いやさっきから一言も笑ってねぇだろテメェ」
テーブルの下の足を置く段差に座って、いつもと変わらない会話を繰り広げる。
三初は相変わらずのテンポだ。
俺が衝撃の事実にすこぶる照れていることなんて、知らないだろう。
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