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第七.五話 暴君カレシの尽力
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しおりを挟むポカン、と口を開けてナーコを見つめる。
三初と言えば基本顔色は変わらず、怒る時ですら淡々と責めるので、クール過ぎて逆に怖いぐらいの男だ。
あったとしても変化は一瞬。
それが他人にわかるくらい取り乱すなんてこと、有り得ない。ブチギレるとは無縁に見える。
「ンなわけねぇだろ。幻じゃねぇのか?」
「失礼ね! 客商売してるから、記憶力には自信があるわよ! あの子凄くイライラして、キレイちゃんが悪い子って説明した後『弁償するんで、ドア蹴破りますね。後監視カメラ見せてもらっていいですか? 社会的に殺します』って、有無を言わさない勢いだったのよぉ」
信じられなくて疑うが、話はどんどん理解の範疇外に進んだ。
ナーコはうふふと笑いながら「必死だから嘘じゃないと思ったの。で、わかったわって頷いた時に、丁度キレイちゃんが出てきてねぇ~。凄かったワ~」と続ける。
「私が見てるのも忘れたみたいでね~、怖い顔でパッて近づいて、思いっきり回し蹴りよ! 側頭部を一発。よろめいたところを絞め落として、ディスプレイで飾ってた縄を使ってギッチギチ!」
「う、嘘だろ! あいつがニヤケ面と無関心顔以外するかよっ!」
「ホントよホントッ。後はキレイちゃんのお金で病室ルーム取って、シュウちゃんになにをしようとしてるのか吐かせてたワ。重低音でね~。『二度とふざけたマネできへんよう、手足へし折ったろか? あ? 死ねや』って、お口が悪かったのよね」
「嘘だろ! 嘘だろ!」
だめだ。全然無理だ。
聞けば聞くほど信じられねぇ。
オラついた三初なんて想像できず、俺は終始信じられないと言ったが、ナーコはこの目で見たと言い張った。
そんなもん納得できるかよ。
第一、なにがそんなに取り繕わないくらい必死になることがあンだ?
俺のオイタにキレてたって思ってたから必死こいて謝ったのに、間森マネージャーにそこまでキレるのは、意味がわかんねぇ。
ちりとりの中のゴミを捨て、箒を裏にしまってから、俺は改めてカウンターの前に戻る。
「…………」
「うーん。あの子はドSっていうより、王様みたいよね……あ! そうそう、暴君ねっ! ピッタリ~」
「………いや、やっぱ意味わかんねぇ。なんでそんなに怒ったんだよ。俺がここに来ることを秘密にしたからだろ? マネージャーは関係ねぇよな」
「やだこの子。それ本気で言ってるの?」
大真面目の真剣な顔で言ったのに、今度はナーコが信じられないとでも言いたげな表情をした。なんでだよ。
理解が追いつかない俺は「じゃあお前はわかるのかよ」と尋ねる。
するとナーコが手招きをするので、顔を近づけた。
耳元に唇が寄せられ、吐息がかかる。擽ってぇ。
「あのね、シュウちゃんのカレシは、ナイショで来たことじゃなくて、セクシャリティが男な人が溢れるゲイバーにシュウちゃんが一人で行くのが、だめなのよね」
「そりゃ、まぁな」
それはわかるので、コクリと頷く。
たぶん、やましいことがあるのかと疑ったのだろう。
詳しい動機は聞いてない。
三初はメッセージの既読がつかないから冬賀に場所を聞いてやってきた、と言っていただけだ。
けれどナーコの話の続きを待つと、話を聞くにつれ、俺の体はジワジワと体温が上がっていく羽目になった。
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