誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力

12※

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「っ……は、…く……」

「限界? ここで抱いてあげましょうか……?」

「……っせ、っ……いいから早くコレ、止めろよ……っ!」

「ヤダ。くく、強情ですね」

「くっ……」


 できるわけないことを小声で唆され、画面を見ていた視線を三初に移すと、片腕で肩を抱かれた。

 俺のほうが僅かに背があるので、そうされると三初の頭に自分の頭をコツンとぶつけてしまう。

 それと同時に振動のパターンを変化させられ、ランダムなうねりを持ち、俺は咄嗟に三初の腕にしがみついた。


「んっ……、ん……っも、……いい加減に、止めろってっ……!」

「しー……まだ中だからダイジョウブ」

「ぁッ…や、めろ……」


 他の客がいるために派手に動けないシアター内では、当然満足な抵抗ができない。

 それがわかっている三初は俺の股間に手を伸ばし、片手で器用にジーンズのフロントボタンを外す。

 細長く関節の張ったシルエットの指が指先で下着の上から芯を持った陰茎をなぞり、シミになっているだろう先端をカリッ、と引っ掻く。


「ぁ……っ」


 思わず甘い声が大きく漏れ、あまりの羞恥に顔が燃え上がった気さえした。

 誰も振り返っていないかを確認しても、この暗さじゃ当たり前に聞かれてないかなんてよくわからない。

 最低だ、クソ野郎が……ッ!


「濡れてんね」

「死、ね……ッ」


 耳元に唇を寄せて嘲るように囁かれ、腹の底から憎らしい罵倒が絞り出されたと思う。

 たぶん凶悪な呪いをかけられたくらいの恨みが篭っていたはず。
 明日コイツのブツは爆発するのだ。

 三初の言うとおり勃起し始めている屹立の先走りで、下着の中がジットリと濡れているのが気持ち悪い。
 尻の間までダラダラ伝ってんのがわかる。漏れ出たローションと混ざって最悪だ。

 どうにかして体内の異物からの刺激をなくそうとするが、モゾモゾと座り悪そうに動いているといつ他の客にバレるかわかったものじゃなくて躊躇した。

 クスクスと笑って股間を揉む三初に小声で罵詈雑言を吐いていると、どこかの席から「ンンッ」と咳払いが聞こえてピタリと動きを止める。


「っ、く……ぅぅ……ッ」

「ほら、シー、でしょ」


 ニンマリと笑いながらスイッチも切らず手だけを動かす三初のなんとムカつくことか。

 画面のカーチェイスに巻き込まれて死んでほしい。デートにスリルなんて必要ねぇ。

 三初は俺を片腕で抱き寄せて自分にもたれかからせ、口元をキツく手で塞いだ。


「人様に迷惑かけるのはマナー違反ですからね。先輩が映画に集中できるよう、静かにイかせてあげますよ」

「ッう、ふぅ……!」


 いや。いやいやいや。
 だから、そういうことじゃない。

 普通に、普通にローターのスイッチ切ってくれりゃあ解決する話なんだよ、このサディスト暴君が──!

 なんていう心の絶叫がこのクソ彼氏に届くわけもなく。届いたためしもなく。

 迫力溢れるカーチェイスに爆破オチまでの笑いどころを楽しむ余裕だってない。


「……っ……」


 下着をずらされて露出した肉棒にヌルリと指が絡まり、ゆっくりとしごき始める様を、スクリーンの光で目撃してしまった。

 快感を感じて内部をキツく締め付ける襞が、ヴヴヴヴヴと震えるローターにうねり、内ももを閉じてしまう。

 俺はできるだけ意識を逸らそうと、キツく目を瞑った。

 声は出せない。三初に口元を押さえられながら、自分でも唇を引き締める。呼吸すら殺したくて、喉奥をゴクンと絞る。


「っ……っ、っ……ふ……」


 身を固くして手淫を受け入れると、リズムの乱れた鼻息が鼻腔を抜けた。

 三初の手は塞がっているのでローターの振動を切り替えることができず、ローターは同じ箇所を一定のリズムで叩き摩擦し続ける。

 周りの人間はみんな一心に画面だけを見つめているのに、その背後で、俺はローターをオカズに恋人の手で高められているのだ。

 次第にクチャクチャと粘着質な音が、足の間から聞こえる。

 目をつぶっていてもわかる。
 意識をそらそうとしていたはずが、意識を奪われていく自分の体温の上昇が。


「ふッ……ふ……ッ、……ッ」


 気づけば、完全に息が上がっていた。

 三初の手のひらにふっふっと熱の籠った二酸化炭素を吐き出して、吊り上がっていた眉を悩ましく顰めてしまう。

 足先が靴の中で強く丸まっては、もどかしく開いた。閉じて、開いて、震えて。

 ゆっくりとした手淫が速度を増す。
 時折溢れた先走りを塗りこめるように陰嚢や会陰、先端をマッサージする手。

 俺が本気で三初の腕を掴めばその手を止められるのに、そうする力が弱くなる理由は、快感で力が抜けるからだけじゃない。


「やらしい先輩だなぁ……もっとめちゃくちゃに、触ってほしいんですか?」

「んっ……ふ、っ……」


 聞きたくない答えを耳元で囁かれ、背筋がゾクン……ッ、と粟立った。



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