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第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力
01
しおりを挟む──春。
突然だが、うちの会社にはいくつもの部門がある。
詳細は省くが、俺とその後輩で恋人である三初がいるのは、販売宣伝部の宣伝企画課。
隣にあるのは商品開発部の商品企画課。このフロアは企画課が集まっているのだ。
それだけ戦略が大事だということ。アイデアは財産だからな。
さてさて。
それを踏まえて、販売宣伝部には販売総括課というものがある。
つまり販売部のトップが集まる課だ。
本社であるここでは関東エリア。中の区分はいくつか。
俺たちの企画が打ち出し火をつけた物の売上を安定、もしくは向上させ、常にグラフを追うのが奴らの仕事である。
奴らは総じてエリアマネージャーと呼ばれる役職を持つ、エリート集団だ。
平社員に見えるが、権力は各課の課長クラス。
まぁなんだ。俺が逆立ちしたってできない立場だと覚えてもらって問題なし。
事実は認める。不本意ながら。リーダーは不向きでもあるから構わねぇけどよ。
で、要するになにが言いたいのかっていうと、そいつらが白と言えば部長が黒と言わない限り、カラスは白くなる、ということ。
「えーということで。販売部より今年度前期の関東エリアB地区担当マネージャーに就任した、間森 輝鈴くんだ。Bの仕事がある者たちは、しっかり覚えておくように」
「間森です。以前は関西支社にいました。まだまだ若輩者ですが皆さんのお力になれるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」
そしてその役職に、あの間男──じゃない。
あの間森先輩が就任してしまい、俺は朝礼の最中からとんでもない顔ではんなりスマイルを睨みつけているということであった。
チッ、最悪だクソがッ。バレンタインの日に三初の部屋で雑談混じりに聞いた話は、ガチだったのかよ……ッ!
内心暴れ狂いたい俺の目つきは、今日も絶好調である。
おかげで俺の隣に立つ三初が「先輩の顔が怖すぎて間森マネージャーの横で課長が死にかけてますよ」と耳打ちするが、知ったこっちゃねぇ。
朝礼なのに俺の周りにだけ微妙に空間ができている時点で、課長を気遣うのは焼け石に水ってもんだ。
普通に生きていても顔が怖いらしい俺が意識的に睨むと更に厳つくなる案件。今更すぎる。
どうせ研修を終えた新入社員にも、五月には一定の距離を取られるしな。
そしてめんどくさそうな態度の奴に一喝するまでが俺の仕事だ。
ケッ。どいつもこいつも人の顔をなんだと思ってやがる。魔よけか。大魔王は隣にいるけどよ。魔をよけさせろチクショウめ。
フン、と不貞腐れてやる。
挨拶を見て義理でパチパチと拍手をすると、三初は拍手をしつつ俺を見もせず、足をコンと蹴った。
「なにしやがんだ」
「間森マネージャーは睨むと喜んで始末が悪いんで、三白眼は封印して下手くそな愛想笑いでも浮かべておいて下さい」
間森マネージャーが礼をし終わると次はC地区の新マネージャーが挨拶をし始めたので、拍手をやめる。
この野郎。
好き好んで吊り目に生まれたわけじゃねぇってのに、遠回しに貶すな。
つーかテメェはなんで平然としてんだコノヤロウ。俺ばっかアイツを警戒してンのは、なんか癪だろ。
いや課長が青ざめている様子は愉快そうに見ているけども、間森マネージャー関連は興味ゼロの三初だ。
もうちっと警戒しろ。
テメェのケツとチ✕コをあわよくば狙ってんだぞ? アイツ。
逆転願望がないとは言えない俺だが、それほどこだわってはいない。
それでも付き合ったからには三初の前も後ろも俺専用であるべきだ。間違いない。そのためにはもちっと頑張れ。防御頑張れ。
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