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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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しおりを挟むたった二文字の言葉なのに、俺がきちんと貰えていない愛。
一時は自分も言えるかと突っぱねたのだ。意地っ張りな俺が気持ちを言葉にするのは、難しい。
しかし三初は自分は言わないくせに、言わせると決めるとなにがなんでも言わせる暴君である。
おかげで今や散々言わされた言葉だが、返答はいつもひねくれたものだ。いい加減拗ねてもくるものだろう。
ドンと強請ると、三初はふぅん、と息を吐きつつ、俺の頭をなでていた手でつむじを指でかき混ぜて遊んだ。
「逆にあんた今、俺にそれ言えます? はい、俺のこと好きですか?」
「そりゃあす、……………すッ、……す、すす、……う、嘘だろ」
「それが答えですよ」
「呪われてんのかってくらい口が重てぇ……?」
「ね」
ほらな、という顔をする三初に、俺はなるほどと頷く。
たった二文字と思っていたがそれを改めてシラフで言うとなると、いつぞやグズグズの状態で連呼させられた時と違って、スムーズに言葉にならなかった。
わかった。舐めてたぜ。
これが俺らというカップルに課された〝どうあがいても素直になれない〟という呪いらしい。チクショウ、否めない。
一時的に今日は諦めて、またいつか飾りっけのない愛の言葉を貰うことにした。
ひねた装飾のあるものはさっき多めに貰ったからな。
俺だって、言葉以外のものは結構たくさんあげた一日だ。
「……ふぁ……」
「寝る?」
「ん……」
ほっと一安心すると急にまどろみがやってきて、俺は返事の代わりに力を抜き、三初の腕に頭を預けた。
「いいご身分だことで。それされると動きにくい」
「いいだろ……今日は俺の枕になれよ」
ふわふわとやってきた眠気はコイツの生ぬるい低めの体温と相まって、俺を夢の世界へかっさらっていく。
いつもなら俺の部屋の狭いベッドでうっかり枕にすると、容赦なく頭を落とされる。邪魔とも言われる。
そのくせ客用の布団を下に敷くと言うと却下される日々。
だけど今日は機嫌がいいから、嫌味を言っても俺を抱いたまま動かなかった。
なんだよ、デレ期か? レアだな。
「口の中甘いから歯磨きしたいんですけどねぇ」
「あー……」
大人しいままにやはり文句は言う。
目を閉じて、瞬きをして、三初の言葉を考えた。
結果、俺は三初の唇にチュ、とキスをして、その歯列を軽く舐める。
チョコレートの甘さとコーヒーの苦みが混ざって意外とくせになる味だと感じた。
「ほら、歯磨き、終わり……な。結構、うまい」
「……屁理屈言うようになっちゃって。早めに捕まえてよかったな」
「ふ……んー……マジで寝る……」
「はいはい」
ギュッ、と強く抱きなおされ、なんだか俺までいい気分になり、高揚感ではなく安心感で胸がいっぱいになっていく。
「先輩、嫉妬してもいいですけど、俺の気持ちは疑わなくていいですから。こう見えて知れば知るほど、俺はアンタにハマってるんで、ね。……おやすみ」
もう持ち上げられない瞼の下で夢に旅立ちながら、そんな言葉を聞いたような気がした。
──割とハッピーな、狂犬と暴君のバレンタインの一幕。
──────────────────
[裏話]
しかし先輩が寝てから歯磨きをして、割としっかり抱きしめて寝直した三初である。
そして割との頻度で、一緒に寝る時は先輩の頭をなでてから、その頭を抱えて寝るのである(朝になったら離す)。
そういう男である。
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