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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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しおりを挟む抱いているだけで暖房器具の代わりになりそうなほど湯たんぽ化する俺をトントンと叩きながら、三初はニマ、と笑う。
「そういうわけでさ。俺に甘やかされたいだとか、好かれたいだとか、褒められたいだとか、もう知ってるわけでしてね」
「い、ぃや違っ……違くて俺はその……っ」
「うっかりしてましたよ。大好きな俺にだけは、思ったことそのまま言えないんでしたっけ?」
「そッ、だからンなことッ」
「俺で気持ちいいって言ってぇ~。全部欲しい~。俺以外に好かれねぇで~。俺だけ抱いて好きになって三初ぇ~」
「あぁあぁぁあぁ……ッ!」
もうやめてくれ。
俺のヒットポイントはもう皆無だ。
今まで実害を感じなかったので気にしなかった一定以上酔った時の記憶がなくなる自分の酒癖を、生まれて初めて本気で恨んだ瞬間である。死んでくれ酔いどれの俺。
「ほんとに俺は、好かれてるなー」
そして死ぬほど赤面する俺を、鼻が高いわ、と上機嫌にヤニ下がる暴君がじっと見つめたから、限界の限界。
「~~~っわ、悪いかチクショウ、好きでなんか文句あんのかコラァ……!」
「全然? どーぞ、もっと愛してくださいよ」
最終的に開き直って茹で上がったタコ顔のままガオウッ! と噛みつく俺は、それすらサクッと受け入れられてあっさり撃沈した。
──コノヤロウ、どうせ面白がってんだろ……ッ!
少し涙目になるほど俺は恥辱に塗れてるってのに、顔色一つ変えない男。
そいつに本気の恋をしたのが最大のミステイクだが、もう少し真剣に取り合ってくれてもいいものである。
不公平だ。負けっぱなしじゃねぇか。
すると不満と自己嫌悪にやさぐれた俺の気持ちを見透かしたのか、三初は「御割先輩、こっち向いてください」と俺の髪を掴んで軽く引っ張った。
「っ雑にすんなッ、今俺は顔面から発火しそうだってのに……ッ」
「あはは。人体発火現象とか、面白いので燃えてもいいですよ。なんなら一緒に燃えてあげますし」
まず燃えたくねぇって言ってるんだよ気遣え暴君、というセリフは言葉にならず。
その理由は、機嫌よく笑みを浮かべる三初が、じっと俺の目を見つめたせいだ。
ぐ、と息を詰める。
こういう時美形は得だと思う。
俺がいくら見つめたってたじろぐ理由は眼光だろうが、こいつの場合はだいたい、……ドキ、とする。
俺だけじゃねぇと思う。無罪。
「なんていうかまぁ、あんたのそういう断固言えないとこも、そう思ってるとこも、結構イイと思いますよ。……要するに〝俺は御割 修介じゃないと満足できません〟ってこと。次忘れてももう言いませんからしっかり覚えてくださいな」
掴んでいた髪を離して、イイコと言わんばかりになでられた。
それがどういう意味なのか、わからないほど鈍くはない。
好きに準ずる、ザラメのような尖った甘味だ。
未だ引く気配のない熱で頬を火照らせたまま、俺はこくりと頷く。
けれど、若干の物足りなさもあった。
脳裏に美人な先輩やらデザイン部の女たちやらが浮かんだのもあり、俺は相変わらず唇をへの字に曲げたまま、視線を逸らす。
「……それをもっと明確な感じで言おうって気は、ねぇのかよ」
要約すると、好きだと言え、ということだ。
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