255 / 454
第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
49
しおりを挟むどうにか寝室にたどり着いた俺はドサッ、とベッドに倒れ込み、脱力した。
ドアを閉めてこちらに向かってくる三初をじっと枕に顔を埋めながら見つめる。
赤のボーダーの上と紺の無地の下のルームウェアを着てだらりと歩いてくる三初。
「三初、その……俺のカバン開けて見ろ」
その足が壁にかかった自分の黒いスーツの下にあるカバンの傍に来た時、俺は意を決してボソボソと呟いた。
渡すのが照れくさいから相手に取り出させようという、セコい魂胆である。
「は? なんか言い方が気に食わないんでやです。ご自分でどうぞ」
「おわッ」
けれど俺の思い通りには絶対動かない男、三初は、俺に向かってカバンを投げつけてきた。
こ、この野郎。毎度毎度先輩の筋書きを壊しやがって……! 投げんなよ潰れる! 予想外すぎるわ!
うつ伏せに横になっていた俺の背中に見事ヒットしたカバンに手を伸ばし、内心で罵倒する。クソ暴君め。
「さーて。社畜脳の先輩は、支給タブレットと書類ファイルと外回りで入れっぱなしの資料その他仕事関係以外、ろくな荷物を持ってるものかねぇ……おかげで先輩のカバン、いつも筋トレ兼ねてんの? ってくらい重いからなぁ」
ギシッ、とベッドが軋み、クスクスとせせら笑いながら嫌味を言う三初は俺のすぐ近くに腰掛けた。
俺がモゾモゾと開けているカバンを覗き込もうとしてくる。
プライバシーの侵害だぞコラ。
俺だって仕事関係以外のなにかしらを持ち歩いたりするわアホ。
どんどん眉間に寄るシワの数を増やしながら、俺はどうにか底のほうに隠しつつ潰れないよう気をつけて入れていた物を、そーっと取り出した。
「……あぁ、なるほど」
察しがいいのも困ったもの。
覗き込んでいた三初は俺の手にある包装紙に包まれた箱を見て全てを察し、感心したような声を出す。
「このタイミングの提出で、まさかの手作りですか」
「まだなにも言ってねぇのにディスんな!」
そして「そこまで正確に察しなくてイイんだよッ」という俺の叫びに、あははと笑い声を上げた。
ほらな、どうせそんな感じだと思ったぜ……!
わかってんだよ俺が手作り菓子をバレンタインにあげるっつーガラじゃねぇってことはよォ……!
カァァ、と耳まで顔が赤くなった。
きっと風呂に入ったせいでのぼせ上がってしまったのだろう。そうに決まっている。
しばらくクツクツと喉を鳴らして笑っていた三初は俺の隣に潜り込み、同じようにうつ伏せで横になる。
広いベッドだが俺の手元を見るために肩を寄せてくるので、なんだかセックスして寝落ちするだけのいつもと違って普段よりドキドキとした。
「クソッ……ほらよ、ご所望のもんだぞオラァ……喜び勇んで是非にと受け取れ……ッ」
「くくく、見てわかるくらい喜んでるでしょ? わーいやったー。超嬉しー。乙種第四類危険物取扱者と毒物劇物取扱責任者の資格持っててよかったー」
「わかりやすく人の初めての手作り菓子を危険物扱いしてンじゃねぇよこの歩く危険物がッ!」
肩をグリグリぶつけながら菓子を押しつけると、三初は失礼発言で俺をからかう。
遠回しに失敗前提で受け取りやがった。なんてクソ野郎だ。
誰の手作りが可燃性危険物だコノヤロー。燃えカスじゃねぇぞ一応。何回か消し炭になったけども。
それとも失敗作前提なのに受け取ったところを、愛されてると思えばいいのか?
……どっちにしろクソ野郎だ!
20
お気に入りに追加
1,377
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
市川先生の大人の補習授業
夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。
ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。
「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。
◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC)
※「*」がついている回は性描写が含まれております。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる