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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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しおりを挟む「今回は既存の製品でだったろ? 中高生向けの価格帯だ。男はまぁ、気合い入れたもん返すとセンスで爆死。だから外さない菓子類を渡す。本気感があっても困るしよ」
「そうですね。その年頃だと親に選んでもらうってのもないから、まー、そこプッシュして企画通したなぁ。俺たち社員は大人ですから、他の企画は無自覚に気取ってましたしね」
「まぁな。あげんの男でも食うの女だってのに男向けゴリゴリ仕様じゃダメだろ」
次第にウキウキと語り始めた俺に、三初はニンマリと相変わらずの表情で文句を言わず相槌を打った。
「俺は気取ったやつが下手くそだかンな。でも男はカッコつける。キャッチコピーはそこで差をつけてよ。で、先月はデザインコンペも白熱したわ」
「うちのデザイン部、物の見事に得意系統バラバラで我が強いですから」
前を向いていた首を三初のほうに向け、そらな、と笑う。
そのデザイン部といつも合同で新年会をするのは、仕事で絡むことが多いからだ。
女が多い部だから俺は苦手。というか怖がらせるしあんま声かけられたりしないから、いつも三初が代わりに間に立っている。
「ホワイトデーはよ、男がターゲットだろ? 友チョコシェア占めてっから女も結構多いけど。でも主体は男だから考えやすい。ちょっと理屈っぽい説明つけてやってさ。中身とデザインはやっぱ両方にウケるようにするけどなァ」
「パッケージにデコれるところ作るのとか、女子向けポイントね。公式SNSでも死ぬほどデコったお遊びトゥイートしたし」
「まさか仕事中にガチで工作するとは思わなかったぜ……どっかの誰かじゃあるまいし」
「誰のことやら。あとは、メッセージ入り小分けパックで義理チョコ狙いとかも女子向けですかね。口下手な男とかも?」
「くくく、お前じゃねぇか」
「棚の上に自分上げてますよ」
「ほっとけ。そもそも俺はホワイトデーなんかオフィス一括のでしかしねぇよ」
「ふぅん」
やっぱり俺は、こいつとのなんの気もない日常会話が一番楽しいのだろう。
BGMと化しているホラー映画なんて、いらないのだ。
まあ無駄にはしない。また次の休みに見直すという口実で、家に呼べばいい。
飯に誘うと夜になるから、昼に誘える口実があるほうがいいわけである。……長くいられるから、までは言わないが。
すっかり機嫌を良くした俺はある意味口下手な天邪鬼の脚を、再度パシッと叩いた。
けれど今度は三初のほうがなんだか気の抜けた返事を返して俺の顔に手を伸ばし、額にバチンッ、とデコピンをする。
「いッ……てぇな、なんだよッ?」
コノヤロウついさっき俺が拗ねたことを忘れてんのかオイ。
イテェだろうが、なにすンだ。
けれどさっきは俺がうまく機嫌を取ってもらったので威勢良く噛みつけず、複雑な気持ちで三初を睨みつけるに留める。
俺の眼光になんて基本ノーダメージな三初は、のんべんだらりとマイペースに「んー」と声を漏らし、俺の手首を掴んだ。
「しないんですか? バレンタインも? 俺、恋人なのに?」
「なん、……っ、しねぇわアホ」
そんな言葉と共に透き通ったハチミツ色の瞳に責められ、ドキ、と心臓が避難勧告を出した。
──なるほど。
コイツが引っかかったのはそこか。
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