誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第五話 冬暴君とあれやそれ

34(side三初)

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 わかっていたのに歯止めが効かず、やってはいけない喧嘩をした。

 沸騰したまとまりのない言葉は、蓋を押し上げて吹きこぼれる。

 カッとなって売り言葉に買い言葉。言い合ったあの言葉は全部、自分をなじるものだ。腹が立つね、まったく。ヘタレなひねくれ者なんか、丸めたゴミより無価値だろ。


『この意気地なし!』

「……あんたにだけだよ」


 乾いた口の中で小さく告げる。
 図星を突かれて腹が立ったから、何倍も傷つけたのだ。

 目を開くと、なにも浮かんでいない天井が見えた。
 ゴロリと寝返りをうつ。

 パソコンが置いてある壁際のデスクの上に、全く興味も良さもわからない、クリスマスプレゼントなるものがあった。

 無意味と化したそれへ、役立たずを見る冷たい視線を送る。


『プ、プレゼントくらいやるだろ? 好きなやつなんだったら、絶好の機会に好きだってアピールしろよ。普通するだろ』


 昨日──先輩がそう言ったからあのプレゼントを用意した。

 アピールになるというそれをあげれば、俺がそういう好意を持っていると、伝わるんじゃないかと思ったのだ。

 回りくどい、馬鹿げたことだろう。
 だけどその程度には口で言うのが難しい性分なもんで、そういう姑息な手段を使おうとした。

 それに、俺が口で言ったところで本気だって信じらんないでしょ?
 口先三寸で人を転がしてばかり。のらりくらりと誰も内側に入れないように、生きてきたせいだ。

 自業自得で、困ったことなんかない。
 ……アンタに信用されないこと以外は。

 役立ちそうな情報を記憶する癖で、先輩の欲しいものはいくつかそれらしいものの目星はついていた。けれどどうしたものか、どれがベストかわからない。

 そんな気分は初めてだった。
 万が一にも外したって別になんともないが、たまには喜べばいいかと、思って。

 一番喜ぶものはなにかと、考えて。

 だからなにごとも確実な方法を選ぶ俺は、本人に選ばせようとしたわけだ。

 だけどクリスマスになんか興味がないと言って笑った口で、今日を──「イブを一緒に過ごしませんか?」と言うことが、あんなに難しいとは思わなかったんだよ。

 本当、意気地なしだなぁ。

 そういうやつが大嫌いなのに俺がそうなってるって、気が狂いそう。先輩は俺をどんどんクソ野郎に変えていく。一周回って憎らしくすら思えた。

 改めると唇が瞬間接着されて、ただ見つめることしかできない。

 どうでもいいことならいくらでも言えるし、怒らせたり泣かせたりする言葉はいくらでも思いつく。

 結局最後まで誘えず、周馬先輩と二人で出かける約束をしていたのかとわかった時は、言わなくてよかったわ、なんて結果論で流した。

 逃げたような気持ち悪い気分でショッピングモールへ向かって、そこそこうろついてからそれらしいものを見繕う。

 そこで突然電話がかかってきた時は、流石に焦って反射的に切ってしまった。
 や、だってモールの音がさ、聞こえたらバレるでしょ。勘ぐられるのも嫌だ。

 テーブル上のプレゼントは、そういう徹底的な天邪鬼の成れの果て。

 ふとした思いつきだ。
 あんたの恋しいサンタクロースは殺して、俺がなりかわってやろうか、と思った。


「でもやっぱ、イベントごともプレゼントもつまんない。……ね」


 昨日話を振ってきた先輩がなにを思い、やたら楽しげにソワソワとしていたのかは、知らないが。

 俺とあんたの距離が離れるなら、クリスマスイブなんて消えればいい。 

 思い通りにならない理由がわからなくて、俺はドロついた夢の世界へ沈んだ。




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