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第五話 冬暴君とあれやそれ
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世間様がいよいよもって浮き足立つ本日、クリスマスイブ。
特番を見ながらクリスマスディナーを楽しむ予定くらいしかない俺は、残業も切り上げ、冬賀と共にショッピングモールへやって来ていた。
「シュウ、そこのクリスマスツリーなんてどうだ? 今日はイブらしいし大きいからきっと喜ぶぜ」
「テメェの頭にそのデケェツリー突き刺してやろうか? 年一でしか使わない上に場所取るモンを彼氏に貰ってどこの女が喜ぶんだよダボがッ!」
「そうかぁ。じゃあソリにするか」
「お前の彼女成人女性だろッ!」
スキーならまだしも、いやスキー用品でも普段使わない相手なら嬉しくねぇはず。置き場に困るに決まっている。
子どもが草原や雪原で使うソリを指さす冬賀をどうにか引っ張り、女心なんてわからない俺なりに軌道修正をはかる。
あちこちカップルや家族連れが蔓延るモール内で男二人が騒ぐと目立つからな。
リア充に対する嫉妬とかやっかみはないが、俺だって人目は気になる。社会人だしよ。
ちょっといいマフラーなんかの防寒具なら季節的にいいんじゃねぇか? と提案して、俺たちは冷やかすだけ冷やかしたおもちゃ屋から、揃って離れた。
そもそもなんでのっけからおもちゃ屋に連れて来るんだよ。これだから学生時代から感性が変わらない間抜け野郎は……!
どれほど怒ったところで冬賀の仕方がないことは経験上わかっている。
深いため息を吐きつつクリスマス一色のモール内を歩いていると、ふと、俺は三初のことを思い出した。
クリスマスイブのディナーを誘い損ねた、あの三初のことだ。
本当になんのきっかけもなくフワフワと脳内に浮かんだ三初は、相変わらず俺を小馬鹿にした様子でニンマリと笑っている。
今日の三初も初めはそうだった。
しかしそれも途中までで、終業時間が迫るにつれて三初はどんどん黙り込んでしまい、行動に謎が多くなった。
なぜか俺の仕事をいつの間にか奪って俺の手を空けようとする。おかげで残業はほとんどしなくて済んだ。
昨日頑張ったぶんもあるけれど、それにしたって綺麗に片がつくとは。
真剣(に見える)な表情でカタカタとキーボードを打ち込み、資料作成から確認、スケジュールの作成と管理、手配、それらの関連業務を手早く終わらせた三初。
普段なら自分の仕事という領分を勝手に侵されると怒るのが俺なのに、今日ばっかりはその横顔に見惚れてしまった。
たぶん俺はバグっているのだろう。
でなきゃ胸のあたりがウズウズ、なんてしなかったはずだ。
すぐに持ち前の負けん気で自分も仕事に励んだが、俺は先輩なのに遅れを取った。
メール処理だけ見ても、ブラインドタッチなんてできない我流打法の俺に勝ち目はなかったからな。
それでも抗うのは意地である。
これまで三初は俺を手伝って多忙から解放すると、その空き時間はたいてい、俺をイキイキと虐めてデトックスに精を出す。
けれど今回は「ん」と出来上がったあれそれの原本を素っ気なく手渡してデータはメールで転送し、それ以上なにも言わない。
俺はなんだか逆に照れくさくなり、ありがとうと小さく言って、パイの果実を一掴み押しつけることしかできなかった。
溜め息を吐かれたが。
なんなんだアイツ。
しかも終業後にはなにを言うでもなく、物言いたげに俺をじっと見つめていた。
なんだよ? と聞いてもいや別にと目をそらす。デスクを指先で叩いて落ち着きもない。意味がわかんねぇだろ?
その後は冬賀がすぐにやってきたので、三初は二、三言挨拶をしたかと思えば意外なほどさっさと帰っていった。
あの視線はどう言うことなのやら。
考えられるこれまでのパターンから察するに、八割強の確率で〝俺に対して失礼な思考を抱いている〟である。
アイツの「いーえ、なんでも」は信用しないほうがいい。だいたい馬鹿にしてんだ。
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