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第五話 冬暴君とあれやそれ
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しおりを挟む──帰路。
さて、ローションと焦らしとテンションの勢いで、うっかり二回戦。それも直接的に誘っちまったわけだが……。
俺は脳内で何度も、自分にアナウンスしたはずだ。
今はクリスマス直前の上年末前の繁忙期であり、自由な社風故にイベント時の有給も取りやすいので、仕事は急ぎ足。
となればまず遅れないように出勤し、いつもより素早く大量に仕事を熟すべき。
そのためには自分の健康維持は当然。
パフォーマンスを最大に保つのだ。
「んー、カーセックスってガチでやるもんじゃないですよね。ウェットティッシュの消費量がヤバい。あとイカ臭い」
「だからファブっただろうがッ!」
助手席で倒したシートに丸くなりながら、掠れ果てた声で唸った。冬の乾燥と抑え込んだ喘ぎのダブルコンボ。聞けよオイカッスカスだぞコラァ。
元凶とも言える三初は、今度こそ本当に俺を送るために運転席に着きつつも冷静にカーセックスの弊害を考えている。
そのイカ臭いお遊戯をガチでやりたがったのはどこの誰だよ腐れサディストが。
俺は完全なる被害者だ! 見ろよ時計をッ、夜の十一時だぞッ。シャワー浴びて即寝の帰宅時間だろ!
俺がそう唸ると、聖夜目前でも通常運転の悪魔は憐れむように鼻で笑った。
「だぁかぁら、俺は車内ヤダって言ったでしょ? なんのために先輩オンリー我慢大会でほくそ笑む方向に転換したわけ? オススメできない退廃プレイだからでしょうが」
「グッ、そ、それがそもそもテメェ発端じゃねぇか!」
「そりゃ当然。で、も。わざわざ然るべき場所でって言ったのにエンジンかけてる俺を後ろに引っ張りこんで一も二もなく舐めてきた淫乱アフォーは誰ですか? え?」
「! そん、うぐぅ……っ」
「あーあー俺は襲われた側なのになー。もっかい抱けってお強請りしてきたの誰かなー誰かなー」
コイツ……!
わかっているくせにニヤニヤと笑いながら遠回しに責める性格の悪さと言ったら、救いようがない。
相手が選べる選択肢が一つだけになるよう強要してからさぁ自由に選べばいいと振ってくるのが、三初のやり口だ。
そして最後はいつも「選んだのは先輩で、俺はそれに付き合った善良な後輩ですよね?」と宣う。
マジでコイツ、企画宣伝より営業や総務のほうが向いてんじゃねぇか?
詐欺師とかホストでもいいけどよ。とりあえず人を唆す職に就け天職だ。
「……し、強いられたんだよッ」
「ぶっ、ククク……!」
事実なのでとても言い返せず、俺はヘロヘロのまま明日を思って唸った。笑うな!
サイボーグかと疑う体力を持つ三初はケロッとしているが、人種が違うのだろう。
冬場は寒さで動きが鈍る俺は、まず疲れた日の翌朝にベッドから起き上がることがハードミッションなのだ。
「チッ、お前が毎度前フリなく俺で遊ぶのが悪ィ。多少敬え、先輩様を」
プイ、とそっぽをむく。
まぁ、別に後輩に好きにされるのがムカつくというわけではなく、しぶとくやたらと悪態をつく理由は他に二つあったりするが。
一つは俺らしくもなく甘えたようなことをしたのが恥ずかしくて、余計に強がって唸ることしかできないということ。
もう一つは最近ずっとセーフティセックスだったからか、久しぶりに直で中出しまでされたせいで、妙に生々しい満足度が高かったということ。特別それが好きってわけじゃあねぇのによ。
責任を取るから云々かんぬん、という思わせぶりなセリフだって、俺がツンケン尖っている理由である。
ヤベェ、三つだった。
なんで三つ目あんだよ。クソッ。
「……フンッ……」
ブロロロロ、と車のエンジン音と外の世界の音を聞きつつ流れゆく窓の外を眺めながら、ほんのりと頬を染める。
全部はリクライニングさせていないシートから見える外の景色では、街路樹がイルミネーションされていた。
相変わらず眩しいもんだ。
キラキラしているものを綺麗だと思うが、別にそれ以上なんとも思わない。
けれど今日はなんとなく、クリスマスか、とも思った。
冬賀が彼女にクリスマスプレゼントをあげるとか言っていたせいでもあるだろう。
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