誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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閑話 都合のいいエイプリルフール

02※

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「……ん、……ぅ、……く」


 絶対に嫌だと思っていたはずが、結局俺は三初の命令通りに中を縮めて、好みの角度で自ら腰をくねらせていた。


「……はっ……ぁ、……っン」


 絞って、緩めて、呼吸に合わせる。
 内壁が誘うようにうねり、ハメられた異物にへばりつこうとするのがわかった。我ながらどうかと思う。

 意識して繰り返すと、そういう軟体生物のように筋肉がぐぱ、と拡がってはぎゅぅ……っと窄み、肉棒も指もまるごと包み込んでカタチをなぞる。


「っ……中えぐ……ふ、すげ」


 そうすると感じはした。
 足の付け根もねじって、尻の肉全部でなるべく包んでしゃぶる。
 気持ちはいい。甘く、痺れる。


「ハァ……ハァ……ァァ……」


 セックスと違いただ中で食んでいるだけだと、他人の肉体が自分に入っている生々しい感触がやけにリアルだった。

 扱き慣れたモノのカタチ。
 今夜いやってほど出入りしてそこで爆ぜてたくせに、今は一突きもしやがらない。ゴクン、と唾を飲む。

 ゴム越しの体温。あっちィ。ビクビクしてる。腹ン中でちっと動くの、生き物孕んでるって感じて、落ち着かない。

 オマケの指のカタチも。
 オマケのくせにピンポイントで当たってるから、押しつぶされると熟れた鈴口からトロトロと先走りが糸を引く。

 寝返るように背を反らし、腰を揺らしてケツを絞り延々と続ける。

 もうやめようと思うが、ヌルついた腹筋をにゅる、にゅる、と押し擦るように撫でて遊ぶ三初の手が心地よくて、眉根を寄せながらものたのた続ける。

 けれどその手が頭をしならせる程度にゆるく勃起した陰茎に触れて手慰みに粘液を揉みこみ始めると、やっぱり我慢ならなくなってきた。

 こんなんじゃ、足りねぇ。絞めてるだけじゃイケねぇんだ。
 イケるわけねぇんだ。


「っふ、み……三初ぇ……っ」


 体は素直に蕩けた快楽を受け取って溺れながら三初の手に肉芯を擦りつけているが、俺はゆるゆると首を振った。


「やっぱイけねぇ……っ無理だ、もういや、もうやめる……っぅ」

「ワガママだなぁ。……あ、そう言えば先輩。日付変わったんで、今日ってエイプリルフールなんですよ」

「ぁ、そ、それが、ぁっ」


 だからなんだ。
 そう思って眉をしかめ、情けない顔で見上げる。


「せっかく抱いてんのにやだやだ言われたら傷つくじゃないですか。でもエイプリルフールなら、先輩──……〝イイ〟って言ってることになりますよね?」

「ッ! ンッんなわけ、あるか、ァ、あッ……!」


 手酷い暴論をかざし、三初は意地悪をやめて指を引き抜いた。
 ちゅぷ、と抜ける指を追って名残惜しげに吸いつく粘膜が恥ずかしい。

 潤んだ瞳で見つめた先には、俺を焦らして穴のデキを上げるねちっこい調教より、愉快な遊びを思いついた暴君の満面の笑み。


「ヒッ……! ぃ、ぐっぁっ」


 足を抱えられて腰が浮き、尻が上がって膝を胸に押しつけられた。

 体内で肉同士がぐにゅっ、と擦れて熱っぽい声をあげるが、取り繕う余裕はない。そんなことよりも俺はもう、セックスなんかしたくねぇんだよ。

 嫌だとごねる本当の理由は〝本気でこのままイキそうだったから〟なのだ。

 俺はそんな男じゃない。
 なのに自分で感じて、揺すって、イッたら言い訳できない。
 三初が強引にイかせているという免罪符がなくなるのは困る。


「はぁあっ……も、ダメだ……っ中おかしくなってんだよ……っへ、変になるっ……だめ、だっ、あっ」

「ふっ、んー? イヤ? ダメ?」


 それが嫌で止めたのに、三初は俺の両手を自分の両手で捕まえて手をつなぐように両方を封じ、ぐぽっぐぽっと打って変わって強く深い律動を始めた。


「あ、ん、あ」

「イヤはイイでしょ? ダメはもっと? くく、中物足りないからちゃんとシて、ね。いや、もっと狂わせて、かな」

「ちがっ…違う、違うって……!」

「いいですよ。あんたの好きな奥と前立腺、こうやって、両方」

「違う、ひがっ、っぉ…っぐ、ぃっあ、あっ、……っぁぁあっ!」

「っく、あー……っはは、ほらイッた。やっぱメスイキしたかったんじゃないですか動物みたいな声出して。先輩がイキそうな時の具合くらい把握済みなんでね」

「ぁぇ……っひ…っひがぅ……っ…っ」


 ビクッ…ビクンッ…! と体中が震え上がるように痙攣して、射精とは違う絶頂が足先から脳天までを駆け抜ける。

 自分でイクのは回避したにしても、三初にヤられるとあっけなくドライでイクってのも絶望的だ。

 俺は男のプライドがどんどんなくなっている気がして泣きそうだったのに、三初は機嫌よくゴツゴツ突きながら俺の顔中にキスを降らせる。

 となると。


「──ぁああ…っやめねぇでぇ…っ」


 好き放題抱かれる俺がエイプリルフールを思い出し、もう勘弁してほしくてそう言い出すのは、当然の帰結だろう。


「セックス気持ちいいからっ……はぁっ…まだ足んねぇっ……もっと欲しい、お前が欲しい……っもっとずっと、長くっ……っあ、はっ…はぁっ…はぁっ……っ」

「ンッ……ハッ……」

「やめんなっ…! ああ……っ!」


 グズグズの声で吠えると、ドクン、と中のモノが疼いた気がした。
 調教趣味で遅漏の絶倫とかいう地獄みたいな腐れサディストも、流石に限界が近いのだろう。

 そりゃそうだ。自力でイクためにしてたことでも、結果的にゃ俺のケツでイイ思いしてたのはコイツのち〇ぽだぜ。感謝して謝罪してほしい。


「あっ…ひっ…ぃいっ…三、初っ……」


 ぱんっぱんっと響く濡れた破裂音とベッドが軋む音。

 言葉で辱める余裕もなくガツガツ打ちつけられる律動を、俺の手を握り潰さん力で掴む手を握り返して堪える。


「みは、っんじ、めぇ……っ」


 結合部からぶちゅ、と溢れた粘液が離れる度に粘着いて糸を引いた。

 一突きごとに体がせり上る。
 直腸の曲がり角、どんつきまで容赦なく貫かれると口から出そうだ。


「はっ…はっ…あぁっ…あああ…っ」


 ドロドロの中がきゅうきゅう締まり、出入りするモノに絡みつく。
 半勃ちだった性器が弾力を増してしなり、透明な汁が胸に滴った。自分の出した液体で腹も胸もビチャビチャだ。

 クソ、本気になんのおっせーんだよ。ああクソ。クソみてぇに気持ちいいなチクショウ。死ぬ。


「はぁ…っんか…っお前なんか…っ」


 コイツは最低最悪のクソ後輩だ。
 先輩様はもう嫌だっつったのに、無視しやがって、この性悪鬼畜野郎。
 なぁにがエイプリルフールだよ。

 お前なんか、三初なんか──


「──だいっ好きだよっもぅ……っキスしてやりてぇ……っ」

「っ」

「っぶ、んッ…んッ……んッ!」


 言い終えるやいやなぶつかるように口を塞がれ、ドクッ、と薄いゴム越しに火傷しそうな熱い液体が腹の奥で弾けた。

『テメェなんか大ッ嫌いだ』
『殺してやりてぇ』

 俺はそう言ったのに、まさかキスをされるとは思わなかった。

 刺し殺したつもりなのにハグされた気分だ。握っていた手をギュウ、とあてつけにめいっぱいの力で握る。


「ん……は…ぉ……っん…ふ……」


 密着した肌同士を擦りつけて何度か浅く揺すられ、トク、トク、と脈打つ陰茎から全てを吐き出される。

 余韻に浸る俺の口は好きなようにしゃぶられているが、されるがままだ。

 溢れる唾液が顎をつたう。
 クチュ、クチュ、と角度を変えるたびに嫌な音が聞こえて、舌や歯が溶けていく気がした。

 俺は別に、特別キスが好きってわけじゃねぇんだけどよ。


「ン…ァ……ァっ……はぁ…ぅ……」


 ねぇんだけど、挿れたままこんだけ無駄に上手いキスをされると、腫れたモノの先からタラ、タラ、と白濁液が染み出た。

 何度目やら。まだ出たのか。





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