誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
上 下
142 / 454
第五話 冬暴君とあれやそれ

11※

しおりを挟む


「……ふっ、……!」


 フラリと気力で起き上がり、あとたった二切れだけの海鮮玉の一つに箸を突き刺す。行儀が悪いが見逃してほしい。

 そのままそれを口にして意識を体内から逸らすように咀嚼し、冷えた烏龍茶で胃の中に流し込む。イカうめぇ。こんな状態じゃなきゃ数倍うめぇ。


「お、起きた。偉い」

「ぅアッ!?」


 が。

 それほど必死をこいて速やかに食事を終わらせて帰りたい俺の愛しの海鮮玉に三初の箸がサクッと突き刺さり、最後の一口なのに、まんまと誘拐されてしまった。

 なんて容赦のないクソ野郎なんだろうか。
 これはあんまりだ。暴君すぎる。

 ゴクン、と海鮮玉を飲み込んだ三初がお冷を飲み干す様へ、俺は怒り心頭の血走った目でメンチを切る。


「……こ、……こっ……!」

「お、イカ美味いなぁ。海鮮も悪くない。今度来た時はそっち頼もうかね」

「殺すッ!」


 よし、ぶん殴ろう。
 即断即決待ったなし。食べ物の恨みを侮るなかれ。殺されても文句は言えまい。そうと決まれば有言実行だ。

 意味不明な苦行を受けつつもプルプルしながら味わっていたお気に入りのラスト一口を奪われた恨みたるや、怒髪天をつくに決っている。

 ビーズがもたらす痺れるような快感すら一時的に無視する勢いで、俺は感情のままにガタンッ! と机を震わせて力の入らない足を叱咤し立ち上がった。

 そのままテーブルを躱し、三初の元へズカズカと数歩足を進める。

 すると三初は、今から殴られるというのにおもむろに両腕を開いて、胡座をかいたままにこやかに俺を見上げた。

 それを不思議がる余裕のない俺は、特になにも考えずただゲンコツを落とそうと腕を振り上げた。

 が。


「──ッ!? ひッ、あ゛ッ」


 突然ヴヴヴヴヴッ、と体内に詰め込まれたビーズが一斉にバイブレーションをし始めたせいで、予想だにしない凶悪な刺激を受けた俺はガクンッ! と膝から崩れ落ちてしまう。


「んぅッ、く、あ、やめ、ッなに」

「はい。いらっしゃい」

「ンンッ、ん、ん……ッ」


 で。受け止める準備万端で両腕を広げていたらしい三初が、倒れ込んだ俺の体を難なく抱き止めた。

 背に回された手からカチ、となにかの音がした気がする。
 つかいらっしゃいじゃねぇ。殴らせろ。顔の形が変わるまで殴らせろ。


「はっ……はっ……ん、だ……? なにが……ん、っは……」


 内心では吠えて見せるものの、現実の俺はそれほど冷静じゃない。
 すぐに振動はなくなり今はなんの刺激もないが、起きたことは消えないのだ。

 俺はなにが起きたのかわからないまま目を白黒させて呼吸を乱し、途切れ途切れの言葉をなんとか吐き出しながら胸を上下させた。

 なすすべなく力の入らない腕で三初のシャツにしがみつき、衝撃の余韻がわだかまる体を震わせてグルグルと混乱する。

 脂汗がすごい。目の奥がチカチカする。
 嫌がらせそのものな、体内からの刺客。


「腰抜けちゃった?」


 そうしてうつ伏せに近い体勢で倒れ込んだまま呆然とする俺をからかい混じりに笑い、三初は手の中の物へチュ、と軽くキスをする。


「実はそのビーズ、ローター的な役割もあったりするんですよね」

「っふ、っ…ぁぁあああ……っ」


 カチ、とまた硬い音が手の中から聞こえたかと思うと、罵る口を与えずに、熟れた内壁を全てのビーズが微細な振動でいたぶった。

 ──コイツ……ッ! わざとか……ッ!

 仕掛けるだけ仕掛けて見ているだけなんて三初にしては温いと思ったが、初めから媚薬による掻痒そうよう感が限界を迎える頃に、こうして追い打ちをかけるつもりだったのだ。


「ちょ待っやめっ、や、やべぇから、ひッ……! ッあ、ッ……ゔぁッ…ああ……ッ」


 見事それが身に襲いかかった今は、その血も涙もない魂胆の意図をヒシヒシと痛感する。
 文句を言おうにも、俺の体は抵抗ままならない状態に熟成済みだ。

 スイッチ一つでノックアウトできるほど熱を抱えた今は、ただ性格の悪い後輩にしがみつく腕の力をキツく強めるくらいしか抵抗の術を持たない。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

優等生の弟に引きこもりのダメ兄の俺が毎日レイプされている

匿名希望ショタ
BL
優等生の弟に引きこもりのダメ兄が毎日レイプされる。 いじめで引きこもりになってしまった兄は義父の海外出張により弟とマンションで二人暮しを始めることになる。中学1年生から3年外に触れてなかった兄は外の変化に驚きつつも弟との二人暮しが平和に進んでいく...はずだった。

倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ
ファンタジー
 謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。  二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。  更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。  それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。  異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。  しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。  国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。  果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。  現在隔日更新中。  ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。

【完結】悪役令嬢のお兄様と付き合います。【続編あります】

ビーバー父さん
BL
気づいた時には乙女ゲームの中だった。 ゲームのキャラでもなく、何の役でもない僕が舞踏会で女装してた事から始まった。 悪役令嬢の一助にはなったかな?と思ってたけど、そのお兄様にロックオンされちゃった? ドタバタな僕たちをよろしくお願いします!

異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓
BL
病弱なため若くして死んでしまったルカは、気付くと異世界マフィアを題材とした人気小説の悪役、ルカ・ベルナルディに転生していた。 ルカは受け主人公の弟で、序盤で殺されてしまう予定の小物な悪役。せっかく生まれ変わったのにすぐに死んでしまうなんて理不尽だ!と憤ったルカは、生存のために早速行動を開始する。 その結果ルカは、小説では最悪の仲だった兄への媚売りに成功しすぎてしまい、兄を立派なブラコンに成長させてしまった。 受け要素を全て排して攻めっぽくなってしまった兄は、本来恋人になるはずの攻め主人公を『弟を狙う不届きもの』として目の敵にするように。 更には兄に惚れるはずの攻め主人公も、兄ではなくルカに執着するようになり──? 冷酷無情なマフィア攻め×ポンコツショタ受け 怖がりなポンコツショタがマフィアのヤバい人達からの総愛されと執着に気付かず、クールを演じて生き残りに励む話。

【完結】十回目の人生でまた貴方を好きになる

秋良
BL
≪8/30≫番外編(短編)更新 イリエス・デシャルムは人生を繰り返している。 23歳の誕生日を迎えてからひと月後に命を落としたはずなのに、次に目覚めると必ず14歳の誕生日へと戻っている。何度死のうと、どうやって命を絶たれようとも、必ず人生は戻ってしまう。それを幾度も幾度も繰り返して、ついに10回目となった。理由はわからない。原因もわからない。 死んでは戻り、また人生を繰り返す。オメガとして家族に虐げられ、ひどい折檻を受けるあの日々を……。 イリエスには想い人がいた。 〈一度目〉の人生で一目で心を奪われたクラヴリー公爵家の次男、ディオン・クラヴリーだ。 自分の家族と違って、優しく明るく穏やかに接してくれるディオンに、イリエスはすっかり恋をしてしまった。 けれど、イリエスは人生を繰り返している。だから何度となく繰り返す人生のなかで彼のことは諦めた。諦めないとやっていけなかった。 だから、彼のことはただ遠くで想っていられれば、それでよかった。 彼の幸せを、彼の知らぬところで想い続けていれば、ただそれだけでよかったのだ。 しかし、運命は残酷だ。 〈10回目〉の人生を迎えたイリエスの不可思議な運命の歯車は、イリエスの想いに逆らうように、ついに回り始めた——。 【CP】 スパダリ系美形の公爵家次男α(16-2x歳)×家族に虐げられている不憫な侯爵家次男Ω(14-2x歳) 【注意・その他】 ・サブタイトルに * =R18シーンあり(軽め含む) ・サブタイトルに # =残酷描写あり ・オメガバースで、独自解釈、独自設定を含みます。 ・男性妊娠の概念を含みますが、登場人物は妊娠しません。 ・いわゆる「死に戻り」ネタなので、受けの死に関する描写があります。 ・受けの自慰シーンがあります。 ・受けが攻め以外に性的暴行を受けるシーンがあります。 ・攻めと受けのR18シーンまではやや遠めです。 ・受けがとても不憫な目に遭い続けますが最後はハッピーエンドです。 ・本編:約26万字、全63話 + 番外編 ・ムーンライトノベルスさんにも投稿しています。

吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎
SF
 VRMMORPG『One and only world』。通称ワンオン。唯一無二の世界と称されたこのゲームは、ステータスが隠れた完全スキル制となっている。発表当時から期待が寄せられ、βテストを経て、さらに熱が高まっていた。  βテストの応募に落ち、販売当日にも買えず、お預けを食らっていた結城白(ゆうきしろ)は、姉の結城火蓮(ゆうきかれん)からソフトを貰い、一ヶ月遅れでログインした。ハクと名付けたアバターを設定し、初期武器を剣にして、ランダムで一つ貰えるスキルを楽しみにしていた。  そんなハクが手に入れたのは、不人気スキルの【吸血】だった。有用な一面もあるが、通常のプレイヤーには我慢出来なかったデメリットがあった。だが、ハクは、そのデメリットを受け止めた上で、このスキルを使う事を選ぶ。  吸血少女が織りなすのんびり気ままなVRMMOライフ。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 第四騎士団に所属している女性騎士モニカは団長のカリッドより呼び出され、任務を言い渡される。それは「カリッドの恋人のフリをして欲しい」という任務。モニカが「新手のパワハラですか」と尋ねると「断じて違う」と言い張るカリッド。特殊任務の一つであるため、特別報酬も出すとカリッドは言う。特別報酬の魔導弓に釣られたモニカはそのカリッドの恋人役を引き受けるのだが、カリッドは恋人(役)と称して、あんなことやこんなことに手を出してくる――というお話。 ※本能赴くままにノープランで書いたギャグえろお話です。

処理中です...