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第四話 後輩たちの言い分
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しおりを挟む「はぁぁぁぁ……お前ら、俺が疲れるからやめろ。開幕喧嘩腰とか意味わかんねぇ。つかなんでお前ら仲悪いんだよ……」
「だってセンパイ三初がっ! 三初が俺のセンパイを独り占めしてるんすっ! オール三初が悪いんすっ!」
「俺は俺のものだっつー話を何回させる気だコラ。あ?」
「俺の玩具だっつー話も何回させる気なんですかねぇ」
「大魔王は黙ってろ!」
どんな時でもブレない三初が話に入ると一切進まないので、グワッ! と威嚇する。男三人玄関先でなにをしているのやら。
なんにせよ俺に泣きつく中都とそれを腕を組んで白々と見下ろす三初、コイツらの言い分を聞かないことには解決しない。
中都は大学時代、珍しく俺に人一倍懐いていた後輩だ。
もともと誰にでもかわいがられるコミュ強のワンコロだが、傍目でも本人でも見てわかるくらい俺を特別扱いしていた。
そう思えば……連絡先が紛失したあと奇跡的に再会したというのに三初という新たな後輩に居場所を盗られたようで、寂しく思ったのだろうか。
びえええん! と泣きつく中都の背中をさすりつつ、もしそんなシリアスな展開だったらどうすんだ、と内心悩む。
「セぇンパぁイ~っ三初なんかとじゃなく俺とも遊んでくださいっすぅぅ~っ! お散歩もお風呂も添い寝もご飯もブラッシングからマッサージまでセンパイの全てはこの中都くんがお世話したいんすよぉ~っ!」
「……チッ……」
お悩み相談は不向きなのだ。
だからと言って俺が中都を昔と同じく特別扱いし、要望通り世話されるためにそばにいてやるのは違うと思う。
けど泣く中都を突き放せねぇし、三初が舌打ちするし、困るし、玄関だし、シャワー浴びてぇし。
仏頂面の眉間のシワが深まった凶悪顔にしか見えないだろうが、内心じゃ突然泣かれてオロオロしている俺。
すると不意に三初がスッ、と手を伸ばし、俺の顎をグリッと掴みあげた。
「はぁ……じゃ、わかりやすく言ってやるよ。型落ち後輩」
「んぅッ……!?」
そしてそのままポカンとしている中都をじっと見つめ、三初は静かな動きでクイ、と小首を傾げる。
「お前はこれが欲しいのかもしんねーけど、欲しがっても未来永劫無理なの。これはもう俺のなの。俺がそう決めたから。わかる? 俺が、そう、決めた。ね? もう無理」
「な、なん……っ!?」
「〝なん〟じゃねぇよ。〝はい〟だろ。俺はお前にとってこれがどんな存在かはどうでもいいし興味ねーから、ただ理解しな」
「ぐぬぬ……っ!」
「これは、俺の」
顎を掴まれてろくろく話せない俺を後目に、三初は淡々ととんでもない理屈を、なんの躊躇もなく言い放った。
言われた中都も目を丸くして青ざめつつ、歯噛みしている。
そりゃそうだ。笑ってんのに笑ってねぇし、声に一切温度がねぇからな。俺には横顔しか見えねぇけど。
あぁ、俺の人権はどこに行ったんだ。
先輩をこれって言うなコノヤロウ。
文句も言えずに一瞬の沈黙が舞い降りたあと、怯んだ中都はそれでもめげずにくっと顎を上げ、果敢に三初を睨み返す。
「くそぉ……! いちいち爪チラつかせてんじゃねぇぞ……! 俺にとって修介センパイがどんな人か知りもしねぇくせに脅迫トーンで威嚇しやがって……ッ!」
「別に? 普通に言ってんだろ?」
「うっせぇわいっ! 知らんけどってんならとくと聞かせてやんべっ!」
涼しい顔をする三初に対し憤慨する中都は燃え盛る勢いで真っ赤に染まり、俺をビシッと指さした。
そしておもむろにスゥゥゥ……と息を吸い、キャンッ! と吠える。
「修介センパイは俺の青春──つまり俺の亡き愛犬に激似の唯一無二な人型ワンコなんだよぉぉぉぉぉぉっっ!!」
「は?」
キーン、とよく響く声は至近距離で俺と三初の鼓膜を揺らし、その言葉をしっかりと脳に届けた。
うるせぇぞこの駄犬。
ちなみに「は?」と言ったのは三初だ。俺は中都が俺をどう思ってるか、割と前から知ってたしな。
顎を掴まれたまま大声で叫ばれムスッとする俺と違い、三初はゆっくりと目を細め、それからそーっと自分の口元を塞ぐ。
「あー……了解。ヤバイタイプの変態だったのね、把握した。じゃ、いいや。八坂、部屋上がれよ」
「言われなくとも! ふんっ! ふんっ!」
「ふむぇ」
なにを理解したのかわからないが、三初はすっかり敵意を失った目でどうでもよさそうに中都を部屋へあげた。
ついさっきまで宝物庫の番人的なもの並のゲートキーパー力だったくせに、なにがどうなってやがる。
どうでもいいがとりあえずこの部屋の家主は俺でさっさと顎を離せってことを、俺は早急に伝えたいのであった。
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