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第四話 後輩たちの言い分
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しおりを挟む「んで晩飯の時間になったんで飯を作ったわけですが、寝落ちした風邪っぴきの弱々駄犬が起きないものでね。帰るのめんどくさいし、泊まることにしただけですよ」
「それはまぁいいけど、なんでお前俺を抱いて寝てんだよ。伝染っても知らねぇぞ、迂闊だろアホが。距離を取れよ。俺は看病なんかできねぇからな。料理もできねぇし」
「普通に〝一緒に寝て風邪が伝染ったら心配〟って言えばいいのに……これだから意地っ張りのツッパリ星人は」
「それを的確に察しておいて普通に心配を受け取らねェひねくれ大魔王には言われたくねェわッ」
ベシッ! と三初の胸を叩くがビクともしない三初により、俺はシラケた視線で突き刺される。なんとも哀れだ。
しかし看病をしてくれたのはこの大魔王なので、頭が上がらないのも事実。
そのかいあってまだ熱を測ってはいないが、ほとんどなにも不調を感じない。体感で風邪は治っているだろう。ありがたいはずなのに、腑に落ちなかった。
まったく、病み上がりの先輩様に対してコイツ遠慮なしか。
素直に感謝する気が吹き飛ばされるぜ。今の俺は存分に噛みつけるからな。
「ま、問題はウイルスじゃなくて、俺がベッドで寝るために先輩を転がしたらいい感じに転がって戻ってきて、俺の腕を枕にした挙句、しがみついてきたことかな」
「記憶にございませんが」
「三分前の記憶も飛ぶとは、耄碌してますねぇ……」
うるせぇわ。記憶にあるからなかったことにしてんだろうが、察しろサドキング。
俺は羞恥心から爆発しそうな表情筋を無理矢理引き締め、険しい顔つきを保ってガバッと起き上がった。
悠々と寝そべっている三初がクククと喉を鳴らす。腹立つ。
ガサガサの喉は相変わらず痛いし寝起きの体は気だるいが、昨日のような暑くて寒い感覚はない。完治だろう。
しかし同じく起き上がった三初に体温計を手渡され、渋々と脇に挟んだ。
クソ、寝すぎて気持ち悪い。風呂に入りたい。腹も減った。
「あーあ、もう朝の九時ですよ。どっかの甘えたな寝坊助がしがみつくから、俺の朝活が滞ったなぁ~。メールチェックもニュースチェックもしてねぇなぁ~。朝ご飯も作ってないなぁ~お腹減ったなぁ~」
「~~~っあぁもうわかった! 俺が自分でしがみついた、俺が引き止めたッ、看病アリガトウゴザイマシタッ! これでいいだろっ」
ガウッ! と吠えたタイミングで、ピピピピ、と体温計が鳴く。
「朝ご飯作ってくださいね。って、マジか。あの高熱を一晩で全快とか、先輩白血球まで脳筋なんだ……」
「しみじみと馬鹿にすんな」
計測が終わった体温計を返すと、ベッドから起きて体を解しながら俺をいじめていた三初が、マジマジと俺と体温計を見比べた。
ほっとけ。一気に悪化して最大限弱って即復活するのは、俺の体質だ。長男を舐めんな。
ムスッとしながらベッドに座り込んで三初を睨みあげるが、やっぱりケロッとしていた。……俺はコイツのどこに惚れたんだろうか。真剣に気のせいかと思う瞬間である。
そんな時だった。
はかったようにベッドサイドに置いていた俺のスマホが、ピリリリリ、と着信音を響かせたのは。
「ンだぁ?」
こんな朝早くから誰だよ、と思いつつも手に取り画面を見ると、そこには〝八坂 中都〟の文字が映る。
ってかうわ、めちゃくちゃマイン溜まってやがる。どういうことだよ。
まさかこれ全部このバカポメのせいじゃねぇだろうな……? なんて考えながら、俺はトンと通話ボタンを押した。
「もしも──」
『センパイいいいいいっ! おはようございます! なんで俺のマイン無視するんすかっ!? 昨日甘えたから怒ったんですか!? 冗談っすよおおお~っだって久しぶりに再会したのにセンパイ三初みたいな得体の知れない後輩連れてるしぃ~っ! センパイのナンバーワンの後輩は俺じゃないと嫌っす!』
「──い゛ッ!?」
着信を取って耳に当てた瞬間、キーーンと頭に響くのは騒がしくも情けない中都の声だ。ほら見たことか。どうせこうなると思ったぜ。
「「チッ」」
繊細な俺の脳みそがシェイクされる騒音に、つい青筋を浮かべて舌打ちをする。
ん? 今二人分聞こえたような……気のせいか。三初は腕組みして俺を見下ろしてるだけだしな。
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