94 / 454
第四話 後輩たちの言い分
31
しおりを挟む三初がこんなに長文を話したのは、初めてな気がする。しかも正論すぎた。
確かにセックスのあとは疲れているのでたいてい濡れた髪にパンツ一枚で寝る癖がある俺は、昨日も服を着ていたものの、ドライヤーはサボっている。自業自得でなにも言えない。
情けない? 普段の威勢の良さはどこに行った? うるせェぞ。
ジッと目を見つめたまま淡々と自分の落ち度と過去の所業を当てつけられて、完膚なきまでに折られてみやがれってんだ。
ぐうの音も出ない完敗に決まっているのだ。もういっそ盛大に労われ。
「く、っ……お……俺がその……わ、悪かったです……」
「はぁ……ま、このしぶとさじゃまだピークじゃないか……鈍感残念ボルボックス野郎な先輩は、しんどさにも鈍いんでしょうけどね……」
「うぐッ……ぐ、ぐぐ……!」
渋々納得した俺に、三初はようやくいつもどおりの掴みどころのない表情に戻った。
絞り出したらぐうの音も出たな、俺。
悔しげに呻いている俺の赤い頬に冷たい手を触れさせながら、三初は「なんでどうあがいても黙ってられないんですか」と言う。
「うぁぁ……」
そう言われると、なんとなく後頭部をガシガシと掻いて誤魔化してしまう。
そんなこと俺が知るか。
つまるところ、なんでいつもこうなるかって理由だろ。余計知るか。
強いて言うなら、お前がなにか嫌味を言わないと俺を気遣えない天邪鬼で、俺はその嫌味を突っぱねないとむず痒い面倒な男ってことだろうが。
多少は気だるいがそれなりに鍛えているし体力もあるから、俺はそこそこ元気。今すぐどうこうなるほどじゃない。
でも三初が大げさに過去までほじくり出して言うのは、たぶん、きっと、おそらく、概ね、俺を心配しているからだ。
本人が気づいているかは別として、とりあえず、俺の頬をスリスリと触っているのは確実に冷やそうとしている。三初は体温が低いので気持ちいい。
うっ、チクショウ。
なんかこう、自惚れっぽい。ちょっとハズいじゃねぇか。
気遣われていることには途中で気づいたので、風邪とともにそれを自覚すると、くすぐったかった。わかりにくいンだよ、コイツ。
「……文句は言ってねぇよ。お前の言うこと、聞く。大したことじゃねぇけど、ちゃんと帰って寝る」
気遣いに報いるために自己を労ることにした俺は、決まり悪く宣誓した。
すると三初はフッ、と鼻で笑い、頬から手を離す。
「初めから素直になればいいのに。アンタ、俺に口で勝てたことないですよね? 虚勢と強情は不治の病だろうけどさ、無駄に楯突かないで? 電信柱でもできることですよ? キレ芸で体力消費されて倒れられたら心底目障りですし。ちなみにベッド以外で倒れたら置いて帰るんでヨロシク」
「くそう、従うと決めた直後に反故にしてェ……! 電信柱でコイツの鼻っ柱フルスイングで殴りてェ……! あとお前、最近先輩に対する敬語が完全に消え失せてんぞ」
「あ、タクシー。すみません、乗ります」
「聞けよ!」
非常に腹のたつ言い方での散々な言われようにガオウッと吠えるが、まるで気にしない三初は俺を引きずり、タクシーの後部座席に突き飛ばした。
く、クソ、この天邪鬼野郎め……!
全然かわいくねぇ……!
熱にうかされつつある脳内で拳を握るが、やはり素直に手を引く。
運転手に行き先を告げて淡々と処理する三初という男のことが、また少しわかったからだ。
さっきの三初の言葉を訳すと、要するに『甘く見ていると悪化するかもしれないからさっさと帰って休め』ということだと思う。なにが面白いのか、至極シンプルなことを複雑怪奇な言い方で言っていたんだろうよ。
三初のことだから本当のことはわからないが、もしそうなら少しだけ嬉しいし、どことなくかわいいかもしれない。
そう思った俺は、たぶん風邪が脳細胞の隅々まで蔓延してるんだと思う。
まぁ、風邪なんか引くと弱っちまう。
情けないことに、それのせいだ。そうに決まってる。うん。それしかねぇ。
「なぁ、ありがとよ」
「顔死んでますよ」
素っ気ない返答は、いつもどおりいけ好かない。けれど不快ではなかった。
でも、俺のこの恥ずかしいデレは死んでも表に出さん。出させねぇ。
ラブストーリーのフラグが立ってもバトルアクションに変えてしまうような俺だから。
三初 要の天邪鬼と同じくらい、御割 修介の意地っ張りは、年季が入ったものなのだ。
10
お気に入りに追加
1,365
あなたにおすすめの小説
純粋すぎるおもちゃを狂愛
ましましろ
BL
孤児院から引き取られた主人公(ラキ)は新しい里親の下で暮らすことになる。実はラキはご主人様であるイヴァンにお̀も̀ち̀ゃ̀として引き取られていたのだった。
優しさにある恐怖や初めての経験に戸惑う日々が始まる。
毎週月曜日9:00に更新予定。
※時々休みます。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
僕、先輩の愛奴隷になる事を強要されてます
もあ子ちゃん
BL
カフェのバイトの新人として働き始めたジェレミー。
しかしそこにいた先輩アレンに狙われてしまいそのまま酔わされ家に連れ込まれる事となる。
平凡な日常を送っていたジェレミーは身も心も壊されて…
※表紙イラストの制作は春日部様(Twitter:@naegiyadorigi)が担当して下さりました!
素敵なイラストをありがとうございます!
ーーーーーーーーーーーーーーー
このお話をアレンの視点から辿った「俺、可愛い後輩を無理やり犯して調教してます」も連載中です!ぜひご覧下さい!
ーーーーーーーーーーーーーーー
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる