誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第四話 後輩たちの言い分

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 同じ昨日の今日なのに俺への扱いがキレている三初に背を向け、洗面所に向かった。

 トイレを済ませてから眠気を覚ますために顔を洗い、少し伸びたひげを剃る。顔を洗っても目が覚めたとは言っていない。

 体力はそこそこ回復しているが、あちこち軋んで気だるさが残っていた。
 あと変な寝癖もついている。用を足す時変な感じがした。スゲェ眠い。

 うん。俺の身に起こる全ての不幸はたぶん三初のせいだ。そうに違いない。

 まだ若干寝ぼけた頭で冤罪極まりない発言をしながら、身奇麗にしてからフラフラとリビングへ戻った。

 グゥ、と鳴く腹をさすりつつ、言われたとおりレンジの上から三初お手製のお食事を持ってくる。

 断じて餌ではない。お食事だ。……なんだその顔。
 なにが「奇抜なヘアセットですね」だ。鏡を見なかったわけじゃねェ。見た上で直せなかったんだよ。ほっとけ。


「……んぁ? これなんだ?」

「ひとくちロールサンド」

「なんでタワーになってんだよ」


 コトン、と二人がけの長方形のテーブルに持ってきた皿を置き、席に着く。

 皿には一口ロールサンドなるもので、三段重ねのタワーができていた。
 ご丁寧に赤いリボンで二段目、三段目が巻かれている。耐震設計とは、気の利く後輩だ。


「いやテメェ女子か」

「俺が女子に見えるなら先輩ヤバイですね」

「いつ起きてどうしてこうなった、あほ、ばかが」

「罵倒にキレがない……つまんねー」

「死ねぃ」


 殴ろうとしたがすぐに避けられ、キレ方が生ぬるいと捨て置かれた。

 まったく、コイツがいると俺は朝から落ち着いて飯も食えない。なにかとちょっかいを出してくるし、無視をすると数倍執拗に絡んでくる。

 野菜、チーズハム、ツナマヨ、そしてフルーツクリームにチョコレート。
 素敵なラインナップのロールサンドは食欲をそそったので、一番上のツナマヨをヒョイとつまんだ。

 パクン。意気揚々と食す。


「~~~~ッッ!?!?」


 ──が。

 突然襲いかかってきた鼻にツンとくる異常な辛さに、俺は声もなく悶絶し、そばにあったコーヒーを一気に飲み干した。

 ぼやぼやと残っていた眠気が一発で飛ぶ強烈な刺激に、目尻に涙が滲む。
 これはあれだ。ツナマヨ──じゃなくて、ツナわさびだろッ!


「み、三初ェェェェ……ッ! お前これ、これ……ッ!?」


 どうにか苦いコーヒーでわさびロールを無理矢理飲み込み、鼻と口を手で覆いながら三初を睨む。


「や、眠気覚ましにいいかと思いまして。純粋な善意ですよ」

「百年の眠りも覚めるわッ! 眠り姫でも目玉ギラッギラになるわッ!」

「ほー。眠り姫じゃないのに目玉ギラッギラな凶悪フェイスがここに」

「よしわかった。テメェの眼球に直でわさび塗ってやる」

「いいですけどそれやったらケツにジョロキアぶち込みますね」

「報復がガチ過ぎんだろ!」


 睨まれながらキレられていても、なんのそのだ。
 暴君は素知らぬ顔でテーブルに肘をつき、俺の顔を見上げてクククと笑う。キレる俺がアホみたいじゃねェかコラ。

 グルル、と唸りつつも不毛な気がして、俺は残りのロールサンドをクンクンと嗅ぎ、警戒しながら食べることにした。
 マジでこいつは理解不能だ。


「クックック、犬みてー」

「噛み殺すぞ」




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