誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
上 下
43 / 454
第三話 概ね普通の先輩後輩

08

しおりを挟む


「うわ、お前マジで全然変わらねぇな」

「センパイも全然変わんねっすよ! 相変わらず目つきが悪いっすあいだっ」

「うーるせぇ」


 パシコンッ、と頭を叩くと、中都はにへにへと嬉しげに笑って「やめてくださいよ~」と俺の肩を軽く叩き返す。

 学生時代に戻ったみたいだ。俺はにやりと笑って、しばし中都とじゃれあった。 

 ──八坂 中都といえば、俺が大学の時に所属していた〝コンビニスウィーツ研究部〟に最後の年に入ってきた後輩である。

 元々人懐っこかったが、理由があって俺によく懐いていた。
 飲めもしないのに居酒屋にもついて来たし、休日に突然遊びに誘っても断られたことがない。

 つまるところ、どこかの誰かとは天と地の差がある、なかなかかわいい後輩だ。

 アイツは俺が遊びに誘うどころか、勝手に予定を埋めて連れ出す暴君だからな。ポップコーンだけでは許せない。


「てかセンパイ一人っすか? 俺も今日一人なんでこのまま晩メシでも行きましょーよ! うまいお好み焼き屋がこの近くにあるんす」

「お! マジか。お好み好きだわ」

「知ってます~。センパイのことならたぶん俺いっこも忘れてないっす! だってセンパイ一回言ったこと忘れたら殴るからぁ」

「あーん? 殴ってほしいってかオラオラ~!」

「うぎゃっ! 全然ちげぇっすよっ!」


 へらへらと笑って俺の腕を取る、俺より少し小さい中都の頭を再度軽く小突いてやる。中都はそれを嫌がり、頭を叩く俺の手を掴もうとする。

 だが中都程度に捕まる俺じゃないので笑って体ごと逃げてやった。くく、捕まえてみろよ。


「うぐっ無駄な反射神経の良さっ。ってかセンパイ、ご飯俺と行くっしょ? ちょい早いんでメシ前に遊び場とかショッピングでもいいっす!」


 するとずっと避けられるのは嫌なのか、そのうち構いたそうにこちらを伺いだした。

 中都のやつ、変わんねぇな。俺が逃げると情けなく眉をたらして必死に誘いをかけてくるところも相変わらずだ。

 いつも隙あらば俺に構って、反応が返ってくると過剰に喜び、わっしゃわっしゃと触りまくられる。こういう人懐こいところは、昔も子犬みたいで気に入っていた。

 なぜか妙に猫に好かれるが、俺は犬派だ。
 出山車をかわいがっているのもそういうところだぜ? あいつもなかなかかわいい。タヌキとかプレーリードッグみてぇで。

 久しぶりに会った昔の後輩と絡んで機嫌が良くなった俺は、夕飯の誘いに喜々として乗ろうかと思った。

 だがふと、三初の存在が頭をよぎった。

 そういえば今日は、あいつがいたんだった。
 別に晩飯の約束をしてるわけじゃないケド……なんか、どうせ夜まで一緒にいるような気がしなくもねぇんだよな。


「あー……俺、今日はやっぱ」

「あそこ美味しい黒蜜アイスあるんすよ?」

「行く」

「ダメでしょ」

「いッ!?」


 俺が美味しい黒蜜アイスについ二つ返事で頷いた瞬間、淡々とした否定の言葉とともに背後から強烈なゲンコツが襲い掛かり、ゴンッ! と脳天を強打した。

 いッッッッてぇ!
 マジでいてぇ。本気で殴りやがった。油断した頭蓋骨ってこんな打たれ弱いのかよ。

 突然俺が頭を押さえてうずくまったもんだから、慌てふためく中都の「センパイぃ!?」と呼ぶ聞こえる。

 大丈夫だ。いや大丈夫じゃねぇけど、犯人に心当たりがありまくる。

 俺はたんこぶができているだろう患部を押さえながら首をひねって振り向き、腕を組んで俺を見下ろす俺様何様三初様を、渾身の眼光で睨みつけた。


「三初ェェェェ……ッ! テメェは俺をなんだと思ってんだッ。せっかく買い終わるまで待ってやってたのに遅くなってすみませんより先にゲンコ食らわせんなッ」

「あぁ、オソクナッテスミマセン。アホチョロ駄犬先輩が尻尾振ってたんで、ちょっと反射的に手が出ました」

「俺がいつ尻尾なんか振ったんだ!? そもそも尻尾がねぇだろうがよ!」


 ガウッ! と立ち上がって吠えかかると、三初はコーヒー豆が入った袋を手に、白けた目でジロリと俺を見返す。

 人をアホだのちょろいだの言って殴りやがって、俺のどこが犬なんだアホ。
 まず、先輩を敬え!




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

優等生の弟に引きこもりのダメ兄の俺が毎日レイプされている

匿名希望ショタ
BL
優等生の弟に引きこもりのダメ兄が毎日レイプされる。 いじめで引きこもりになってしまった兄は義父の海外出張により弟とマンションで二人暮しを始めることになる。中学1年生から3年外に触れてなかった兄は外の変化に驚きつつも弟との二人暮しが平和に進んでいく...はずだった。

倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ
ファンタジー
 謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。  二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。  更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。  それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。  異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。  しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。  国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。  果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。  現在隔日更新中。  ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。

【完結】悪役令嬢のお兄様と付き合います。【続編あります】

ビーバー父さん
BL
気づいた時には乙女ゲームの中だった。 ゲームのキャラでもなく、何の役でもない僕が舞踏会で女装してた事から始まった。 悪役令嬢の一助にはなったかな?と思ってたけど、そのお兄様にロックオンされちゃった? ドタバタな僕たちをよろしくお願いします!

異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓
BL
病弱なため若くして死んでしまったルカは、気付くと異世界マフィアを題材とした人気小説の悪役、ルカ・ベルナルディに転生していた。 ルカは受け主人公の弟で、序盤で殺されてしまう予定の小物な悪役。せっかく生まれ変わったのにすぐに死んでしまうなんて理不尽だ!と憤ったルカは、生存のために早速行動を開始する。 その結果ルカは、小説では最悪の仲だった兄への媚売りに成功しすぎてしまい、兄を立派なブラコンに成長させてしまった。 受け要素を全て排して攻めっぽくなってしまった兄は、本来恋人になるはずの攻め主人公を『弟を狙う不届きもの』として目の敵にするように。 更には兄に惚れるはずの攻め主人公も、兄ではなくルカに執着するようになり──? 冷酷無情なマフィア攻め×ポンコツショタ受け 怖がりなポンコツショタがマフィアのヤバい人達からの総愛されと執着に気付かず、クールを演じて生き残りに励む話。

【完結】十回目の人生でまた貴方を好きになる

秋良
BL
≪8/30≫番外編(短編)更新 イリエス・デシャルムは人生を繰り返している。 23歳の誕生日を迎えてからひと月後に命を落としたはずなのに、次に目覚めると必ず14歳の誕生日へと戻っている。何度死のうと、どうやって命を絶たれようとも、必ず人生は戻ってしまう。それを幾度も幾度も繰り返して、ついに10回目となった。理由はわからない。原因もわからない。 死んでは戻り、また人生を繰り返す。オメガとして家族に虐げられ、ひどい折檻を受けるあの日々を……。 イリエスには想い人がいた。 〈一度目〉の人生で一目で心を奪われたクラヴリー公爵家の次男、ディオン・クラヴリーだ。 自分の家族と違って、優しく明るく穏やかに接してくれるディオンに、イリエスはすっかり恋をしてしまった。 けれど、イリエスは人生を繰り返している。だから何度となく繰り返す人生のなかで彼のことは諦めた。諦めないとやっていけなかった。 だから、彼のことはただ遠くで想っていられれば、それでよかった。 彼の幸せを、彼の知らぬところで想い続けていれば、ただそれだけでよかったのだ。 しかし、運命は残酷だ。 〈10回目〉の人生を迎えたイリエスの不可思議な運命の歯車は、イリエスの想いに逆らうように、ついに回り始めた——。 【CP】 スパダリ系美形の公爵家次男α(16-2x歳)×家族に虐げられている不憫な侯爵家次男Ω(14-2x歳) 【注意・その他】 ・サブタイトルに * =R18シーンあり(軽め含む) ・サブタイトルに # =残酷描写あり ・オメガバースで、独自解釈、独自設定を含みます。 ・男性妊娠の概念を含みますが、登場人物は妊娠しません。 ・いわゆる「死に戻り」ネタなので、受けの死に関する描写があります。 ・受けの自慰シーンがあります。 ・受けが攻め以外に性的暴行を受けるシーンがあります。 ・攻めと受けのR18シーンまではやや遠めです。 ・受けがとても不憫な目に遭い続けますが最後はハッピーエンドです。 ・本編:約26万字、全63話 + 番外編 ・ムーンライトノベルスさんにも投稿しています。

吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎
SF
 VRMMORPG『One and only world』。通称ワンオン。唯一無二の世界と称されたこのゲームは、ステータスが隠れた完全スキル制となっている。発表当時から期待が寄せられ、βテストを経て、さらに熱が高まっていた。  βテストの応募に落ち、販売当日にも買えず、お預けを食らっていた結城白(ゆうきしろ)は、姉の結城火蓮(ゆうきかれん)からソフトを貰い、一ヶ月遅れでログインした。ハクと名付けたアバターを設定し、初期武器を剣にして、ランダムで一つ貰えるスキルを楽しみにしていた。  そんなハクが手に入れたのは、不人気スキルの【吸血】だった。有用な一面もあるが、通常のプレイヤーには我慢出来なかったデメリットがあった。だが、ハクは、そのデメリットを受け止めた上で、このスキルを使う事を選ぶ。  吸血少女が織りなすのんびり気ままなVRMMOライフ。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 第四騎士団に所属している女性騎士モニカは団長のカリッドより呼び出され、任務を言い渡される。それは「カリッドの恋人のフリをして欲しい」という任務。モニカが「新手のパワハラですか」と尋ねると「断じて違う」と言い張るカリッド。特殊任務の一つであるため、特別報酬も出すとカリッドは言う。特別報酬の魔導弓に釣られたモニカはそのカリッドの恋人役を引き受けるのだが、カリッドは恋人(役)と称して、あんなことやこんなことに手を出してくる――というお話。 ※本能赴くままにノープランで書いたギャグえろお話です。

処理中です...