誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第一話 後輩暴君の暴挙

03

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「クソ、めんどくせぇな……脱ぐか」

「は」


 替えのシャツを取りに席を立ち、ロッカールームへ向かうのが面倒だ。

 そう考えた俺は舌打ちをしてネクタイを外し、シャツのボタンも外す。

 この企画書を作り終えればあとは帰るだけだかんな。
 ドロドロのシャツの不快感に耐えながら仕事が捗るとは思えないし、終わらせてから替えても死にはしない。

 顔をそらして横目で俺を眺めている三初を無視して手早くシャツを脱ぎ、上半身は中に着ていたインナーだけの姿になる。

 汚れたシャツをデスクのすみに置いて、少しシミができているインナーの裾をぐっと引っ張り眉を顰めた。


「チッ、染みてんじゃねぇか。プリンくせぇよ」

「あー……いいんじゃないですか? 美味しそうな匂いで。甘いもの好きでしょ?」

「よかねぇわアホ」


 クンクンとインナーの匂いを嗅ぐと、どうしたって甘い。

 甘いものは好きだが、自分が甘くなっていいわけじゃない。当たり前だろうが。あといつの間に俺が甘いもん好きなのバレてたんだ? 言ってねぇのに。

 バカにされるからと三初には秘密にしていることをいつの間にか把握され、眉間に谷を作る。

 インナーの裾を上げていると腹が晒されて若干寒いので、さっさと裾を元通りに整えてから俺は改めてパソコンに向きなおった。

 期日ギリギリには提出したくない。
 なんか、気持ち悪いだろ? 夏休みの宿題は七月中に終わらせるタイプなんだわ。

 しかし、さて仕事だ、とキーボードに指をかけようとした時。


「おわッ……!?」


 突然グッと肩を掴まれ、そのままデスクチェアーごとグルンと後ろ向きに回された。

 俺が驚いて声を上げた直後、椅子の背がデスクの縁に当たってガンッ! と硬質な音を立てる。

 座ったままややバランスを崩して傾く俺の肩を掴む手に、少し力が入った。
 体重をかけて押さえつけられている。


「なに、しやがンだ三初ェ……ッ」


 すぐに状況を把握した俺は、ガルルッと低く唸って俺を押さえつけている犯人をキツく睨みつけた。

 この場には二人しかいないのだから、犯人はもちろん三初だ。

 特に動じていない理由として……腹の立つことに、俺は三初のこういう意味のない嫌がらせに慣れているのである。


「んー……」

「うおっ、ちょ、なんだよ……!」


 それと同じくらい俺の眼光や威嚇に慣れている三初は、睨みつける警告が全く効いた気配もない。
 それどころかなにを思ったか、片手で器用に俺のベルトを外し始める。

 は? 意味わかんねぇ……ッ!
 新手のいじめか……!?

 いつもとベクトルが違う嫌がらせに、俺は慌てて飛び上がるように肩を捻り、上体を前に出す。しかしバランスが不安定では力もうまく伝わらず起き上がれない。


「おらよっと」

「アァッやめろッ! テメェいい歳してやっぱイジメか!?」


 手際よく膝ほどまでずり下げられたスラックスと下着が足に絡みついて、俺は足をもだもだと蠢かせた。

 それに伴ってずり落ちた上体では、当然蹴りもいれられずうまく動けない。

 抵抗らしい抵抗ができないまま、拘束する三初の腕をどうにかしようとバタつくくらいしかまともな抗議ができない状態だ。




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