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第十話 悪魔様は人間生活がヘタすぎる
26【完】
しおりを挟むたは~っとため息混じりに本音を呟いて残りを腹に留めた九蔵は、世の中の人々がついうっかりプロポーズしたと言う意味を心底理解した。
一世一代のプロポーズをうっかりやるものか?
バラの花束を出す気持ちのほうがまだわかる気がする。
そう思っていたが、なるほど。
やる。うっかりやる。なんだこいつ一生涯添い遂げてやろうかという気分になる。うっかり結婚する。
そんな言葉をゴクリと飲み込む。
「まぁ、なんつーか……俺さんはニューイさんが好きすぎるのですが、この気持ちを伝える適切な言葉がどうやらこの世に存在していないみたいです。って話。かな」
「ぬっ、うむむ……! そういう時は、こうすると半分くらい伝わるのだよ」
「んへ」
不意に九蔵から愛を示されたニューイはビクッと動揺し、次いでにへっと笑って九蔵の体をギュ~っと抱きしめた。
確かに。言葉よりずっと優秀だ。
──今は……まだ、言えない。
愛を理由にこれまでとこれからの全てを捨てるには、九蔵はまだ若く、そして離れ難い人に恵まれ過ぎていた。
でも、いつかは伝えよう。
ちゃんと心が発する言葉をキミに。
怖いけど、迷うけど、辛いけど。
それでも好きで、好きで、たまらなくて、たまらないほど大好きで。
そうやって歩んできた。
いつだって手を繋いで。きっとこれからもそうして歩ける。
ならばその先で必ず揺るぎない愛し方を、愛され方を、見つけて捧げられると思うのだ。
それでもいいと、思うのだ。
そうして九蔵がニヒ、と不器用に笑うと、腹の虫がグゥと鳴いた。
そう言えば昨日は晩ご飯も食べていない。腹が減って当然である。
顔を見合せて少し笑って、さてそろそろ悪魔様のお手製らしいスウィートなエッグベネディクトでも食べようか、という雰囲気になった直後──ドカァンッ! と轟音が鳴り響いた。
カッ! と目を見開く九蔵。
煙をあげるキッチン。
カロン! と一瞬で悪魔化する恋人。
火を噴くキッチン。
『ハッ! しまった! チンをしていたことを忘れていたぞ! モクモク噴火鳥のタマゴが爆発してしまったのである!』
「なんだそのいかにも爆発しそうなタマゴは。というか森羅万象タマゴはチンするなと決まってんのになにしやがったんですかニューイさん。エッグベネディクトにチンは要らないでしょうがニューイさん」
『い、いやあのそれはその、ポーチドエッグの作り方が難しかったのでちょっとチンの力を借りようとかそういうあれでだな……! 決してチンするとどうなるのか思いつき、つい出来心でやってみたわけではなく……』
「そっか……なら仕方ねぇな……」
『くっ、くくっ、九蔵っ』
「よこせ、頭蓋骨」
『ごっ──ごめんなさい九蔵ごめんなさいごめんなさいである~~っ!』
一目瞭然、大惨事。
ニヒィ、とおイカレ悪人スマイルで彼氏の頭蓋骨をもぎ取り抉らん勢いで拳をグリグリ押しつける九蔵に、頭のないニューイはピギャーっ! と悲鳴をあげて必死に土下座をするのであった。
──紛うことなき本物の悪魔で、笑顔が似合うパーフェクトなイケメン。
一見するとステキなプリンスだが、一皮むけば、ロマンチックなラブストーリーにはとうてい向かない不器用な悪魔様。
ならばお姫様だって、ラブストーリーらしからなくても構わないだろう?
綺麗なドレスは似合わない。
ガラスの靴も履けやしない。
それでも魔法使いなんて現れなければ美しい歌声もなく、国一番の美貌もイバラのお城も魔法の髪も、澄んだ心さえも持ち合わせちゃいない。
ないない尽くしのお姫様を。
人一倍臆病で、恋が下手くそなお姫様を。
くたびれたシャツとジーンズで大きすぎる骨ばった体を隠して、鏡の前で〝ごきげんよう〟とお辞儀をする。
ただ悪魔様のことが好きで好きでたまらないだけのお姫様が──
「こンのぼけぼけスカポンタン! なんで普通のやり方でできないもんを直感でアレンジしてまかり通そうとすんだ! 料理はまずレシピ通りにやれってあんだけ言い聞かせてんのに悪魔素材まで軽率にブチ込みやがって過去最大級爆発してんでしょうが! 物は直しても騒音被害はあるんだって毎回毎回口を酸っぱくして叩き込んできたってのにお前ってやつは! お前ってやつは!」
『うわぁん許しておくれ九蔵ぉぉぉっ! 私の頭蓋骨がゲンコツぐりぐりで壊れてしまうのだよぉぉぉぉ!』
──この悪魔様にはお似合いなのだ。
悪魔様は人間生活がヘタすぎる。 完
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