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第十話 悪魔様は人間生活がヘタすぎる
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その後。玉岸と本音トークを繰り広げているうちに朝勤との交代間近になっていたらしく、九蔵は集まった関係各位にシラフの語りをしっかり聞かれてしまった。
退勤後、まぁまぁの時間バックヤードに引きこもった九蔵である。
なぜ今日に限って全員集合したのやら。
前前前世で村でも焼いたか?
とはいえ真相は単純で、まず九蔵とドデカイ意見交換会をしたニューイは、下がった株を取り戻すべくお迎えにやってきた。
朝の閑散時間を把握しているズーズィが、出勤前に九蔵をからかいがてら朝ごはんを食べるために社長ルックでやってきた。
それをうまい屋エンカウント以来メシ関係で距離を狭める作戦中の凌馬が捕捉し、なんやかんやで着いてくる。
朝勤の夕菜は言わずもがな。
朝から撮影がある三藤がついでに送ると車を起動。
同じく朝勤のキューヌは仕事前に一緒にご飯を食べましょうよと榊を誘い、榊はそれを断らない。かわいいは正義だ。
そして隙あらば悪魔王の元へ通っているドゥレドは、帰り際に「ギュードンとやらが気になる……」とぼやいた悪魔王に貢ぐためくねくねと来店しただけである。
ただの腹ペコな澄央。
ニューイにくっついてきたビルティ。
両隣が騒がしくて目を覚ました越後は、コミュ強のニューイに誘われ空腹の誘惑にまんまと同行。
とまぁそんな奇跡が起こったタイミングで玉岸が来店した結果──ありとあらゆる偶然に愛された九蔵が、見事ムシになって世を儚む羽目になったわけだった。
いやもう勘弁してくれ。
なにが楽しくて自分のヘドロハートを晒し上げねばならんのだ、と。
過半数の顔がいいので許したが。
世話にもなっているので無罪だが。
ちなみに全ての元凶こと玉岸は、泣きながら寝始めたので一旦バックヤードで引き取り保護しておいた。
社割メシを食らいにきただけで暇をしていたござるも介護スタッフにつけておく。
つけられたござるは「時給を所望するゥ!」と吠えたが、保護責任者の九蔵に一週間分のお惣菜をチラつかせられて手のひらクルリと跪いた。よきにはからえ。
なお物欲しそうにヨダレを垂らす相棒には、残り物のカレーを与えておこう。
閑話休題。
──そんなわけで一段落した現在。
「あ~~……良。推し図鑑一気の栄養素はカロリーメンツ超えますわ……」
仕事終わりで建前もプライドも失ったなにかともうダメな九蔵は、自宅のベッドにて、うつ伏せで大の字になっていた。
スマホ、ゲーム機装備。
毎日のルーティンは回収済み。
帰宅した社会人のあるべき姿だ。
暖房ガンガン。ダメ人間バンザイ。これぞ正統派堕落スタイルよ。
「神スチル有りストーリーは読むタイプのコラーゲン……会話パートだって鬼クオ3Dで動くフルボイス推しだし何度観ても惚れるぜ……クリエイター各位ありがとうございます追加DLストーリー待ってます……」
帰って早々カチャカチャトントン現実逃避を兼ねてゲームに熱中していた九蔵は、イケメン成分という名の英気を養いグデ~ンとベッドにへばりついた。
買い切りソフトのいいところは、待ち時間なくやればやるだけ進むところだ。
そして金さえあれば全てのコンテンツを会得できるところにある。
グッズ類に興味がない九蔵だが、DLコンテンツは網羅していた。
もそもそとゲーム機をダウンし、開きっぱなしのスマホの画面を拝む。
「アヤト~今日も包容お兄ちゃん系王子様ですよ~。ちょっと天然で照れ方がぐうかわなとこ軽率に推せる……親愛度カンストまであとちょいだとマイルームでの日常会話がもう甘々の甘なんよな……流石推せる糖質と名高いアヤト……おかげでランイベの倍率修羅だから手加減してくれ報酬カードの顔がつよつよだぜ……」
神絵師による神カードを拡大ガン見しながらゴロゴロ溶ける九蔵。
バイト代の半分を趣味費としている九蔵の主な内訳は、課金、ソフト、雑誌、課金、DVDBOX、漫画、写真集、課金、課金、周辺機器、課金、オマケに課金だった。
実力で時給アップをコツコツもぎ取り賃金割り増しの夜勤に特化。
趣味費以外では一切無駄遣いをしない極端な九蔵の財政は、こうしてトントンなのだ。
天敵は芸能界引退、サービス終了である。
ポチとスマホを消してベッドの端に投げてから、九蔵はゴロンと寝返りを打つ。
「……あ~~……。……ニュウイ~~」
「うむ!」
バチンと目が合った。
ベッドの縁に両手を添えてワクワクキラキラと目を輝かせ、マテの姿勢の悪魔様。
ドストライクイケメン。
生々しきリアルイケメン。
九蔵はほげーと期待たっぷりのニューイを見つめて、心持ち寄り目になる。
なんでって、近い。
どうやら自分の番だとわかっているらしい。小癪な。
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