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第十話 悪魔様は人間生活がヘタすぎる
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しおりを挟むとはいえ結局は、QED。
証明終了だろう。
趣味に関しては半歩と譲れない根っから個人主義の陰キャオタクな九蔵が、こうして許したあとも引きずるくらい惜しいゲームデータを消失させられても、ニューイと別れる気が毛ほども湧いてこないのだから。
自覚があるので、たいへん悔しい。
チクショウ。愛だの恋だのを理由にしたらなんでも許してくれる男だと、勘違いするんじゃあないぞ。
「優しいからじゃねぇって、どうせ気づいてねぇんでしょうがね……」
「ん? なんか言ったスか?」
「なんも言ってないッス」
いつぞや泣きわめきながらキレてニューイに告白した伝説の記憶を思い出して、九蔵は内心でフンとふんぞり返った。
ほうら、いつもそうだ。
やっぱりめっきり自分のほうがずーっとニューイを愛しているに決まっている。
何年経ってもニューイの好きなんてちんまりしたもので、それは九蔵の好きが年々モコモコ増えているからに他ならない。
それに気づかず度量の深い男だと勘違いしているニューイは、空の頭蓋のどこかで九蔵なら許してくれると高を括るからああなのだ。許さなかったことがないから。
その九蔵の〝許す〟がどんなに、ど~んなに大きな愛のもと惜しみなく降り注いでいるものなのか。
たまにはその夜の詰まった骸骨頭で、考えてみてほしいものである。
全ては愛の名のもとに。
悪魔だけの専売特許じゃあないぞ、と脳内でごちる九蔵は、ちっぽけな人間の身でふてぶてしくふんぞり返った──が。
「……。ナス、一応これオフレコで」
「ウィ。言ってスッキリしたらもう全部許す気だから今さらニューイが知って傷つかねぇようにしてネ、って言うココさん心。把握」
「把握してんなら口に出さねーでくださいませ。死んでしまいます」
親指を立てる澄央に、九蔵はそっと両手で顔をおおった。
自分の当てつけを直接ニューイに浴びせる気など全くない程度には、ニューイが本気で心から丁寧にうっかりポカをやらかしていると、九蔵はようくわかってもいるわけだ。
分かり合うとは恐ろしい。
不満がポンポン湧くわりに別れる気にはならず、文句一つ言えなくなる。
別に構わないのだがたまに無性にむしゃくしゃして、それが自我を持ち、認知しやがれと口や頭の中で暴れ狂う。要するに愚痴だ。
いっそ叱られる側であるほうが楽なのに、九蔵はいつも加害者役。
被害者はニューイで、ニューイはかわいそうだ。ひたむきに愛しているのにポカをやらかして九蔵にゲンコツぐりぐりを食らう。
ニューイが大好きな九蔵の世界で、ニューイに文句を言う九蔵は悪者である。
だからニューイにテレパスする。
──ニューイ、ニューイ。悪役ばっかりも疲れるんだぜ?
それでもずっと悪役でいるから、世界公認のヒールになっても、お前だけは俺をヒーローにしておいてくれよ。
それがフェアってもんだろ?
ピンチに駆けつける正義のヒーローも、悪役がいなきゃ日常に溶かされて、誰にも感謝されねぇんだからさ。
遠回しだと伝わんねぇから、なかなか素直に翻訳するよ。ワガママだって笑うなよ?
──俺をお前の悪者にしねーでな。
つまるところ、そういうことだ。
確かに悪者だけれど、ヒーローに嫌われたくない臆病者です。
九蔵が悪役を買って出ているから、ニューイがヒーローでいられる。
ヒーローが大好きだから、悪役は毎週懲りずに手を替え品を替え食ってかかり、ヒーローが強くなる壁になる。違うかもしれないがそういうことだ。異論は認める。
閑話休題。
「「お」」
そうして客足のないうまい屋にて雑談に興じていた九蔵と澄央の目に、ふと、千鳥足の男が店の入口へ近づく姿が入った。
たぶん客だ。仕事だ。
早朝五時すぎと言えば始発もなく夜の民にしては遅い帰りだが、店内に入りさえすればいらっしゃいませお客様である。
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