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第十話 悪魔様は人間生活がヘタすぎる
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翌日。いや、夜勤を経ての早朝なので翌々日か。どうでもいい。
とにかくあれから時を置いたわけだが、九蔵は未だに火種を燻らせていた。
あっさり塩味省エネ男子の九蔵にしては珍しいことだ。それほどの悪事発覚事件だったということである。アーメン。
(ありえん。ありえんすぎる。あそこに並べたゲームは全部俺が遊び尽くして極めに極めたオタクの魂とも言えるコレクションなんだぜ? 総プレイ時間何時間だと思ってんだあのオッペケペー……! ソシャゲと違って課金はしてねぇけど、新規データで育てた推したちと元祖推したちは別人なんだよ! だって俺とあの日伝説の木の下で愛を誓った学園の王子様はもう二度と帰ってこない元祖データのプリンスで……──)
「──なぁんでよりにもよって〝ばくばく★メモリアル~だめんずsaid~〟を真っ二つにしやがったんですかねぇぇぇぇ……ッ!」
「界隈伝説の乙女ゲームことココさんコレクション殿堂入り初期組のばくメモッスね」
「そうですあのばくメモです。昨今のゲームと違ってバックアップもなきゃデータ預かりシステムもありませんよええ。花の学生時代にアレをやることに意味があんのに失ったデータと青春は帰ってきませんさよなら俺の王子様」
「ダメだこりゃ」
客もおらず朝日の差し込む夜明けの情緒的なうまい屋店内にて、九蔵は闇の深い目で淡々と愚痴を撒いた。
本日の夜勤の相方こと澄央はアメリカンチックに肩をすくめる。
そもそもの暴露ネタは澄央のトカゲだというのに呑気なものだ。
なんとでも言ってくれ。
ニューイの言い分もわからんでもないが、自分のしつこさも手遅れなのも百も承知で嘆くくらい許されるべきである。
「ニューイの言い分? ココさんの秘蔵コレクションを留守中にお触りするわからんでもない言い分があったんスか?」
あぁ、あるとも。
なければもっとあけっぴろげにドライモードでニューイを泣かせていた。
九蔵はコックリと深く頷く。
澄央は不思議そうに首を傾げた。……言ってもまぁ、そんなたいそうなものではない。ウィークポイントを突かれただけで。
「ほほう。泣きべそかいて土下座する時の顔がよかったと見た」
「そりゃ残念すぎる情けない姿とは思えないほど庇護欲のそそる捨て犬顔で無自覚上目遣いをかまされましたが、イケメン耐性をバキボキに強化されている今の俺さんはそのくらいじゃ許しません」
「そんな馬鹿な。んじゃあなんて説明されたんスか?」
「……。そりゃあよくある感じで、こう、普通にアレな理由っつか……」
「アレ?」
打って変わって語気を弱めた九蔵は、ボソボソと濁した。
たいそうな言葉ではないし言いたくないわけじゃないけれども、自分の口から友人に話すにはそれなりの余裕なフリと心構えが必要なオチ。
バンダナを巻いた後頭部を意味なくかいて、視線をチラリと逸らす。
「まぁ、その、なんですかね……俺さんに愛されまくった男たちを履修して、密かに自分のイケイケ感をグレードアップする気だったらしいです。はい」
「ヒューヒュー!」
「ノーコメント!」
九蔵の説明が終わった瞬間に訓練された動きで口元に手を添えはやしたてる澄央へ、九蔵は素早く両手でバツを作った。
あぁそうさ。胸キュンしたさ。
心配せんでもあんたは永久チャンピオンとは言わなかった。なけなしの反抗心である。
九蔵の九割は「許しま~っす!」と親指を立てて輝いていたが一割は死守する。
クソチョロオタクと侮ることなかれ。
怒る時は怒る。二度はない。
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