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第九.五話 スパダリ戦争 〜奴〜
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しおりを挟む菩薩だろうがイラつかせる煽りの天才なズーズィだが、桜庭モードだと煽り力半減でまだ我慢できた。
あとサインTシャツからのツーショットにVIP席のツアーチケットをゲットして気が狂うほどヘドバンしたい気分なので許す。
(人混み長旅と躊躇しがちのツアーライブでもVIP席なら待ち時間なくスムーズ入場で楽しめるッ! 生きててよかったッ!)
できれば澄央のぶんも欲しい。
顔に出ないがウッキウキの九蔵である。
しかし生への感謝を生み出すトップアイドルこと凌馬は、爆笑するズーズィを横目でチラチラと頬を染めつつ鑑賞していた。
唯一見える口元がニマァ~とニヤケている。ゴキゲンな口角だ。
「わはっ。も~社長爆笑じゃないですか! そんなに面白い?」
「だって見ただろう? くくっ、ひーっ! 九蔵の表情筋はいつも俺の予想の範疇外からキメてくるからな、っふ、あははははっ!」
「へへ、そうすねぇ。あ~っ俺もニヤニヤが止まんないですよ九蔵のせいで!」
「ぷっ、最高だね!」
うん。たぶんもう確定だろう。
どう考えても九蔵のせいではないゆるゆるニコニコの表情筋を人のせいにして合法化し、ズーズィをガン見する凌馬の笑顔は、乙女ゲームのヒロインのそれだ。
尊敬するニューイへの態度を隠さない凌馬が、ズーズィ相手には嘘を吐く。
それだけでよくわかった。
なんせ自分と似ているもんで。
まぁ相手がズーズィとなると修羅の道になる予感しかしないチョイスだが……凌馬も凌馬で一筋縄では握れない暴れ馬なので、意外と名勝負になるかもしれない。たぶん。知らんけど。
そしてなぜズーズィなのかは、いつかじっくり聞き出したい九蔵である。
いやだって。
いい男だけれども。ズーズィ故に。
「ははっ、あ~笑った。ありがとうな? 凌馬のおかげで九蔵の珍しい顔が見れた。これでしばらく笑い転げられるよ、くっ、ふふっ。ガチめに待ち受けにしたいっ」
「語尾に大草原をつけるのをやめていただけませんかね? 桜庭さん」
「んふっ、うっしゃやったぜ褒められた~。俺的にも社長の爆笑が見れたんで全然オーケーです! あはっ、俺も待ち受けにしてぇ。いやホント。……なぁ~ク、ゾ、ウ?」
「やめて。ガチのおねだりはやめて。サングラスだけは取らせねえ……ッ!」
「ココ殿、ココ殿。拙者お暇してもよいでござるか? 客人どもを見ておるだけで拙者の虫唾がガンダをキメており候。ここは自宅警備のために拙者もガンダをキメて」
「いいわけねぇだろアンポンタンッ! もうちょっとそこらへんに座っときなさいッ! 飴ちゃんあるからッ! 手に負えねぇからッ!」
「御意!」
「九蔵~」
「九蔵~」
「手に負えねぇからぁッ!!」
ツッコミを放棄して帰りたがる越後と自分の欲望に素直な二人にてんてこ舞いで、ギャーンッ! と吠える九蔵。
ビルティといい、凌馬といい。
なぜか自分の友人に惚れる相手は、イケメンを持ち腐れたド級のゴーイングマイウェイ野郎が多い。
──てか凌馬くん……もしや俺に当たってたの、ニューイの恋人で男ってのとズーズィと仲良かったから羨まけしからんかったとか、か?
「……よし! 俺も飴ちゃん食べるかな」
「脱兎の如し現実逃避!」
やんややんやと騒がしいメンバーを前にツッコミを諦めた九蔵は、白旗を上げてとっとと越後の隣に腰を据えたのであった。
お騒がせアイドル、棗 凌馬。
正真正銘誰よりもクソガキで性悪でフリーダムな彼は、嫉妬深くて好きな人ド贔屓な──スパダリとは無縁の男なのである。
第九.五話 了
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