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第九.五話 スパダリ戦争 〜奴〜
01
しおりを挟む「ってことで、スパダリ願望からの闘争本能プラス不安症による上の空だったニューイさんは、無事安心とやる気を取り戻しました。ソロでもお仕事頑張るそうです」
「ちょろすぎて草」
ことの経緯と結果を報告した九蔵の前で、依頼人ことズーズィは「あとお騒がせで鬼」とゲラゲラ笑った。
夜のピークをだいぶ過ぎて、絶妙に客足の少ない時間帯。
店の空白時間を心得ているズーズィはズーズィ丸出しだ。
儚げプリンスな桜庭ビジュアルが泣いている。リアル王子なんて幻想でしかない。アーメン。
そっと十字を切ると、煽りマックスのゲス顔で「パンピーのアーメンとか宴会芸なんですけど~?」と舌を出された。
「喰らえ本職のアーメンッ!」
「ちょ、ウザッ。なにこの海賊版のぶ太くん。ハロー・ポッターのパチモン? 見習いとは言え聖職者のアーメンは激キモッ」
「ふははははは邪気退散去れ悪魔よッ! この越後 明日夏様にひれ伏すでござるぅッ!」
「静電気ぐらいウッッザ!」
「人の本気を冬の風物詩扱いして楽しいでござるか? 聖水ぶっかけたいで候」
「エクソシストのだる絡み~略してクソ絡みウザ~」
「近年稀に見る最低な略し方で悲惨。そしてイチゴくんは俺さんを盾に悪魔にケンカを売るのをおやめなさい。俺さんは一応先輩で三夜連続夜勤中なのです。お疲れなのです」
「ムキィーッ!」
あまりツッコミをさせないでくれ。
なんなら重大なバグを起こしてボケに回るまであるぞ。
脳死の九蔵が仏モードでたしなめると、本日の夜勤コンビこと越後は九蔵の腰にしがみつきながら地団駄を踏んで悔しさに吠えた。
それを嫌そうに避けるズーズィ。
エクソシスト修行で都会に出て(隣の先輩からちょこちょこヘルプされながら)一人で生き抜いているのになぜか周りに悪魔が増えていくので、最近の越後はキレッキレである。
越後と夜勤を組むとたいていその愚痴を永遠に聞かされるのだ。
ちなみに見ての通り、ズーズィと一番相性が悪い。
冷たい先輩こと澄央と仲のいいズーズィなので当然とも言える。
ついでにキューヌには暇つぶしでいじられているし、ドゥレドの筋肉をズルいと僻んではなら筋トレをしろとジムに連れて行かれて発狂している。
最も無害なニューイには越後が一方的な敵意を持っているのでお手上げだ。
それでも九蔵を慕っているので退魔しないところは救いだろう。
同じ身長で一見華奢なビルティには、唯一勝てそうだと思ったようだが……澄央、九蔵、ニューイ以外に興味がないので挑む前からガン無視されている上に、そもそも悪魔ではないので管轄外だった。
哀れ、越後 明日夏。
ストレスフルエクソシスト。
……まぁあの細身美人なビルティはああ見えてゴリゴリの超物理攻撃タイプなのだが、それは言わないでおこう。
脳筋怪力サイコトカゲは薄ら笑いで絞め殺す。
見るからに脳筋なドゥレドが意外と頭脳タイプで知能犯だということも言うまい。
たぶん発狂して実家に帰る。
九蔵は後輩思いな先輩である。
閑話休題。
そうして九蔵が素で残念な後輩と素でイジリのプロな悪魔の相手を一人でしていると、うまい屋の入店音がピンポンパンポンと鳴り響いた。
「いらっしゃいませ!」
「らーしゃっせー」
イチゴくん。
挨拶くらいはやさぐれずにしなさい。接客担当は君でしょうに。
一瞬で背筋を伸ばして上品にお茶をすするズーズィを見習ってほしい。桜庭モードまで秒だった。
厨房担当の九蔵のウェルカムを腐らせたようないらっしゃいませを言いながらカウンターへ移動する越後を、ジト目で責める。
それから食券を買っているだろう客のほうへ視線を移す。
「……おぅふ……」
と、そこにはシルエットだけでも九蔵のセンサーにバリバリ反応するようなイケメン風の男性がいた。
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