悪魔様は人間生活がヘタすぎる

第九話 スパダリ戦争 〜夏〜

３９

　文句もなく抵抗もしない態度を肯定と受け取ったニューイが嬉しげにはにかみ、九蔵の唇を覆うように口づけた。

　角度を変えて、口腔内を探る舌に翻弄される。唾液を蜜とでも感じているのかと疑うくらい執拗に嬲られる。

　ニューイのキスに耽溺するうち、止まっていた動きがゆるりと始まった。

　腹の中を異物が動く感覚。
　ズル、ズル、と身じろぐ長大な肉棒。

　変な感覚に違いないこれがゾクゾクゾク……ッと背筋を粟立たせるのだ。


「はっ……ん…ぁ……っ」


　舌を絡めながらゆっくり抜き差しされていくと、呼吸が乱れ、飲みきれない唾液が顎をつたうかわりに甘い鳴き声が溢れた。

　その角度は弱い。

　薄い腹筋を内側から押し上げるようにやや下からゴツ、ゴツ、と前立腺を突き上げられると出さずにイキそうなくらい気持ちいい。


「ん…っん……んっ……」


　悶える九蔵の身が弓なりにしなって腰が浮き、肌がヒクヒクと震える。

　すると浮いた腰を片腕で抱きよせたニューイが尾てい骨から割れ目を指でグリグリ指圧するので、もともとキツイ中が更にうねって入り口をギュウ……ッと締め上げて感じる。


「んん……っふ、っは、ぁ、ニューイ、くすぐんのやめて……っ」

「ふふ、ごめんよ。九蔵の反応があんまりかわいくてからかってしまった」

「は、もしや今日調子乗ってますね、っあ、ぁっ……っ」


　ゴロンと下半身を横倒しにされ、片足を下敷きにもう片足を小脇に抱かれた。

　お互いのそこを噛み合わせるような体勢。
　そのままたっぷりのローションを含んだ穴をヌルリと退いてこすられ、またズプンと押し込まれ、出たり入ったりを深々とじっくり繰り返す。


「はぁ、っ……あっ……んっ……」


　呆れるくらいじれったい。
　二回目だってことを忘れているのか？　いいや、どうせいつもの焦らしプレイだろう。悪魔の悪い癖だ。誘惑癖。

　やはり調子に乗っている。

　悔しいので知らんぷりして感じていると、繋いでいた片手を引き寄せて、ペロリと舐められた。

　そしてそのまま頬ずりをし、唇を寄せて、視線だけはこちらへと流される。


「うっ……」


　簡単な体だ。
　ニューイの体温を感じながら中をこすられると、うなだれていた陰茎が腹の間で頭をもたげてしまう。

　顔のいい恋人はズルい。

　一度は微睡んでいた火照りが目醒め、肌が快楽を求めて汗ばむ。


「はぁ、もう……わかったから、……もっとすげぇやつ」

「！　うむ、こうだね」

「う、あっ……！」


　悔しいながら即負けした九蔵がボソリと強請ると、ニューイは喜々として笑い一際強く九蔵の体を貫いた。


「あっ、ん、ぁっ」

「こうやって九蔵を一番気持ちよくできるのもきっと私だぞ？　そういうところも評価して、今後も毎日ずっと私を選んでほしいものである」

「んなこと、っふ、あぁ……っんま、知らねから、お前以外……っ」

「知っているとも。だけど、それでも私が一番イイと言っておくれ」

「ん…っんんっ……」

「私はキミの一番になりたい」

「んふっ……」


　グチュグチュと体内をかき混ぜるニューイのおねだりを聞いて、九蔵はやはり少し笑いそうになった。

　付き合う前は〝一番になりたい〟と願っていたのが自分だったからだ。

　本人はいたって真剣におねだりしているので茶化しやしないが、不安症にもほどがある。

　前世級の純愛に立ち向かった九蔵に比べて、ライバルなんて影も形もないのに一生懸命一番を求めるニューイがかわいい。


「一番いい、だけで、いいのかね」

「んっ……？」


　九蔵は中を犯されながら、握られっぱなしだった手でニューイの手を引き寄せチュ、とキスをする。

　──バカだな、ニューイ。

　──俺の恋人ランキングは前科なしのずーっと一人だけなのに。

　たった一人だから、比べようもなく最上級で、比べようもなく最下級なのだ。

　賛辞を送っては罵声を浴びせてケンカにすれ違いにプライド秘密と意見交換の嵐の日々を送っても、入れ替え対象のない唯一無二のランキングは変えられない。

　それくらいには簡単な話である。

　スーパーじゃなくてもお粗末なダーリンでも、ずっと一緒にいたいから。


「最高も最低も、俺の全部……ニューイが不動のナンバーワンだよ」

「っ……──」


　九蔵がニューイを真似て頬ずりしながらそう言うと、ニューイは一瞬大きく目を見開き、半呼吸動きを止める。

　それから眉間にしわを寄せたかと思うと、少し笑って、しかし唇を尖らせ、結局は眉を垂らしてふにゃりと笑った。


「私が人間でキミが悪魔なら、きっと今すぐキミにこの魂を捧げるだろうが……魂が足りなくて困ってしまうね」


　第九話　了