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第九話 スパダリ戦争 〜夏〜
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しおりを挟む気になるイケメンあんちくしょうとイケメン悪魔ちゃんが自分の預かり知らないところで二人きりでいて、そこに気がつかないわけがない九蔵である。
それも暫定ライバル。
凌馬の出方によっては、陰キャラの九蔵とて死力を尽くして割り込みたい。
そのためには話を聞かねばならないわけだが、盗み聞きしようぜ! なんてモラル的によろしくないことは言えまいて。一応上司だ。……一人ならやったことは内緒にしよう。
九蔵が無言でジットリと三藤を見つめ眼力でそう訴えると、モラルに欠けたおっさんは闇落ち目だとドン引きしながらもピコン! と指を立てる。
「でもほら、お前のいない二人っきりの時の出方とか気になるだろ?」
「…………」
「なぁんで凌馬がニューイにああなのか教えてやろうと思ったけど実際見たほうが早いし、おじさん個人的にゴシップも盗み聞きも大好き」
「…………」
「ってことで共犯かつバレた時は言い訳よろしく! 九蔵きゅん!」
「…………ッス!」
ワクワクと目を輝かせて出歯亀根性を出す三藤に、九蔵はそっと親指を立てた。
よし、負けた。
言いたいことは多々あるがここは目をつぶろうじゃないか。
腕力は皆無だがそれらしい理由をつけて逃げるスキルのレベルは高い自信がある。
(……なんつーか、カントクといると悪い遊びばっか仕込まれる気がすんな……)
「くーにゃん早く早くぅ~」
「くーにゃんではないです」
ニューイが無駄におじさん臭い性知識をつけて帰ってくるわけだ、と納得しつつ、九蔵は三藤に習って聞き耳を立てた。
大人ばかりであまりノイズのない店内。
しかしニューイと凌馬はなにやら熱い話をしているのか、心持ち大きめの声を出しているらしく、問題なく聞き取れる。
「──から好きじゃないんですって!」
「そ、そうかい? だが私は少なくとも普通の人間よりもっとずっとキミが大好きだと思うのだよっ?」
「いやニューイさん九蔵の彼氏ですよねっ? 俺そういうの興味ないんでっ」
「!? 興味を持ってほしいのである!」
「あっはい怒りと悲しみと絶望の三位一体攻撃ですねかしこまりました死にます」
「まぁ待て九蔵くん」
開幕から聞き取りやすく聞き取りたくなかった話を聞いてしまいメンタルゲージを赤く染めた九蔵は、サクッと瞳から生気を消した。
酷い。あんまりだ。
せめて少しずつ殺してほしかった。
「大丈夫大丈夫。たかが最推しこと彼氏がトップアイドルに告ってフラれてる状況により俺の推しメンをそこまでキッパリフラなくてもいんじゃね? っつー怒りといつの間にかアイドルにクラっといっちまったんだな悔しいけどわかるわ、っつー悲しみとあれそれつまり俺このあとフラれるんじゃね? っつー絶望にやられただけだろ?」
「いや割とのオーバーキルで草も生えん」
好きじゃないとか大好きだとか。
九蔵はニューイが大好きであり好きじゃないわけないというのに。
瀕死の部下をまぁまぁと雑に復活させる三藤。そこまで正確に九蔵の気持ちを受け取っていながらアフターケアが雑だ。絶望的!
なんとか持ち直した九蔵は、よろよろと少しだけ二人に視線を向ける。
するとなにやらもどかしげに声を上げているのは凌馬で、ニューイは小難しい顔をしていることに気がついた。
……ふむ? とても告白には見えない。
言葉だけ聞けば三角関係悲恋展開だと思ったもののそうと言えず、九蔵は三藤にむけて首を傾げる。
しかし三藤は謎のお察しフェイスで、あ~あと肩を竦めた。なんなんだ。
そうしてしばらくは察しのいい九蔵でも流石に情報が少なすぎて読めず疑問符を浮かべていたものの、二人の話を聞くにつれ──九蔵の表情がじょじょに死相を帯び始めた。
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