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第九話 スパダリ戦争 〜夏〜
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しおりを挟む人に名を尋ねる時は自分からとはよく言うが、言われなくても知っていた。
なにを隠そうニューイと九蔵がいつも録画して見ている推理ドラマ〝今田一少年の通信簿〟の主役、今田一少年役とてこの凌馬である。
グループのリーダー。
そしていつも笑顔でメンバーを引っ張るムードメーカー。
笑顔から柑橘系の香りが漂いそうなほど爽やかでフレッシュな凌馬をメディアで見ると、九蔵は電気屋のテレビコーナーだろうが一旦停止で見つめる。
──マーベラス!
九蔵の脳内では、コンマ何秒の間に拍手喝さいが巻き起こった。
ああイケメンだ。声もいい。是非速やかに距離を取って欲しい。
夏場の薄着じゃ実質素肌。繊維を透過するイケメンの輝きで九蔵は影も残さず消えそうだ。故に距離を取ってくれ。
それにまぁそのなんだ。
彼氏様が見ている前であまりよく知らない人間と密着するのはよろしくないと思う。
別にニューイが嫌な気分になったら焦るとかこれきっかけで喧嘩したら枕がビチョビチョだとかそういうことじゃない。
つまりこう、国民的イケメンに肩を抱かれて九割持っていかれていても、一割ニューイのことを気にするくらいということで。
その上たった一割気にしたニューイを優先するのだから、そういうことである。
この間、コンマ三秒。
イケメンとニューイの間でせめぎあった結果、まだリアクションすら取っていないニューイを優先する自分の脳細胞にはお手上げだ。
「……初めまして。本日からしばらくこちらでニューイさんのサポートをすることになった個々残 九蔵です」
九蔵は密かに愛でている一押しイケメンの一人を前に崩れ落ちそうな膝を奮い立たせて、ごく冷静にあいさつをした。
実際は酷いものだ。
直立不動で卒倒してもおかしくない。
撮影が終わって三藤と写真の確認をしているニューイの存在が気がかりで、蘇っているだけである。
ニューイがこれを見た時「僕は浮気をしておりませんイケメンにデレデレしておりませんでも顔がいいとは思っています許してくれ本能だ!」という、さり気ないアピールなのだ。
少し素でもある。
ニューイで慣れてきたからか、あまり三次元のイケメンに全力で動揺しなくなったような気がした。
三次元のイケメンにというか、ニューイ以外の男にというか。
リアル恋愛とは凄い。
ロマンチストで乙女ゲーに自己投影する九蔵のメンクイ脳を持ってしても、なぜか恋人にしか恋愛フラグが働かなくなる。
そんなことを考えていると、九蔵がニューイのサポートだと知った途端、凌馬は「へぇ!」と瞳をキラキラと輝かせた。
「ニューイさん専属なんだ。すげぇな。なんか特殊な立場。サポートってマネージャーってこと?」
「あ、いえ。俺はマネージャーではなくニューイさん付きの臨時スタッフですかね。こういう仕事も初めてです」
「そうなの? じゃあニューイさんのこと知らねーで来たの? でもさっき見てただろ? めちゃカッケェよな?」
「! はい! あの、ニューイさんのことは知ってました。なんと言うか……ファンとしても」
「! やっぱりな~! あんだけ熱心に見つめてたんだからコアなファンってところだろ? だってニューイさんほぼここの社員だし、撮影終わったら雑用手伝ってんだぜ? あの顔とスタイルとオーラでさぁ! ショーにもテレビにも出ねぇで、ギリ雑誌かコラボとかかな。もったいねぇのよ」
(おぉぉ……これは、もしや……?)
九蔵はキュピンと察する。
ニューイの話をする凌馬は見るからにテンションが上がっているぞ? と。
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