359 / 462
第八話 あっちこっちトラベル
17
しおりを挟むところ変わって、こちら九蔵チーム。
ギャン泣きする白ウサギをカメさんズから救ったあと、事情を聞きだした九蔵たちは、この世界にいるはずの本物のウサギを探すことになった。
聞けば聞くほど呆れる話である。
ニューイの時計を取り戻した白ウサギは、ある程度サイズが戻ったらしい。なので洞窟から脱し、ウキウキと不思議の国の白ウサギらしく暮らしていた。
しかしある日、遊戯室のカケラが混ざり、物語の中をぶっ飛ばされてキューンと目を回すことになる。
気がつけば、知らない草原の真ん中にドーン。そして大量のカメさんズにドーン。
哀れ、白ウサギ。
そんなわけでまず〝どうすればもう白ウサギが追いかけられなくなるのか〟に焦点を当てたところ、ウサギとカメ世界の本物のウサギさんを見つければいいのでは? となったわけだ。
ちなみに、図体の大きい白ウサギのカラダはお留守番である。
カメさんズが草原をただ走っているだけとは限らない。何匹いるかもわからないので、目立ちたくなかった。
代わりにシッポが仲間入りだ。
定位置の九蔵の腕の中に入るシッポ、を、羨ましそうに見つめるニューイ、を、一緒に行きたそうに見つめるカラダ。
謎の連鎖にツッコミを放棄した九蔵だったが、とにもかくにも、二人と一匹はカメさんズを避けつつウサギ探しをしていた。
「って言っても、実質振り出しに近いな……」
「そうかい? 物語も判明して歪んだ部分もわかったことだし、ウサギさんを探せばこの物語は正常になりそうだぞ」
「ニューイの言う通りさ~! というか俺っちたちがぶっ飛ばされて混ざったせいでもあるのさ。カラダが不思議の世界に戻ったから、ちょびっとはマシになると思うさ~。あ、俺っちはカラダの一部さ! 問題ないさ!」
「まぁ、はい。そうですね」
ボジティブ悪魔とノーテンキ毛玉の言い分に、九蔵はふんわりとした肯定を返して歩く。
ドライで堅実な九蔵としては、ちっとも安心感がなかった。
そのウサギがどこにいるかわからない。
もしウサギがどこかの世界にぶっ飛んでいたら? もしウサギ自体が歪んでいたら?
そもそも見つかる気もあまりしない。
なんてったってこの物語の登場人物は審判のキツネがちょろっと出るだけで、あとはひたすらウサギとカメのみ。
不思議の国のように情報を集めて白ウサギに会いに行くには、手掛かりがなさすぎる。
しかし、九蔵はノットリーダー気質だ。
グループ活動における自分の意見の優先度は低めで、根っからの個人主義。自己主張下手くそ芸人。
さらに愛するニューイがいいなら否とは言えない好感度贔屓な男である。前途多難な旅すぎた。
カメさんズに見つからないよう山近い岩場付近を歩いているものの、原作に岩場など出ていない。マズイ。むしろゴールからズレているような気さえしてきたぞ。
「どっかからひょっこり出て来てくれませんかねぇ……なーんて」
そうして九蔵がため息交じりに都合のいい願望を口にした時。
「──頼もぉぉぉぉぉぉうッ!」
不意にすぐそばの岩陰から九蔵たちの目の前に、ピョコンッ! と砂色の塊が飛び出してきた。
おい嘘だろ現実。なんか来たぞ。
九蔵の表情がスンッと無になり、瞳から光が消える。
ニューイとシッポはポカンだ。悪魔王の粋な計らいにより悪意のある悪魔は九蔵を認知できないため、危険がないとわかっているせいだろう。
それに気づいているのかいないのか、砂色の塊はぴょこん! と長い耳を立て、短い丸尻尾をピコピコと震わせた。
そして三歳児くらいの背丈をしゃんと二足で支え、毛むくじゃらの手足をコミカルに振る。
「某、ウサギと申すものでござるッ!」
「でしょうね」
「なぬっ!?」
もはやツッコミを入れることすら面倒な九蔵の目の前で、砂色のウサギ(おそらくオーソドックスな野ウサギだろう)はガビョン! とコメディチックに驚いて見せた。
10
お気に入りに追加
283
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた
羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
朝目覚めたら横に悪魔がいたんだが・・・告白されても困る!
渋川宙
BL
目覚めたら横に悪魔がいた!
しかもそいつは自分に惚れたと言いだし、悪魔になれと囁いてくる!さらに魔界で結婚しようと言い出す!!
至って普通の大学生だったというのに、一体どうなってしまうんだ!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる