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第八話 あっちこっちトラベル

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 ところ変わって、こちら九蔵チーム。

 ギャン泣きする白ウサギをカメさんズから救ったあと、事情を聞きだした九蔵たちは、この世界にいるはずの本物のウサギを探すことになった。

 聞けば聞くほど呆れる話である。

 ニューイの時計を取り戻した白ウサギは、ある程度サイズが戻ったらしい。なので洞窟から脱し、ウキウキと不思議の国の白ウサギらしく暮らしていた。

 しかしある日、遊戯室のカケラが混ざり、物語の中をぶっ飛ばされてキューンと目を回すことになる。

 気がつけば、知らない草原の真ん中にドーン。そして大量のカメさんズにドーン。

 哀れ、白ウサギ。

 そんなわけでまず〝どうすればもう白ウサギが追いかけられなくなるのか〟に焦点を当てたところ、ウサギとカメ世界の本物のウサギさんを見つければいいのでは? となったわけだ。

 ちなみに、図体の大きい白ウサギのカラダはお留守番である。

 カメさんズが草原をただ走っているだけとは限らない。何匹いるかもわからないので、目立ちたくなかった。

 代わりにシッポが仲間入りだ。

 定位置の九蔵の腕の中に入るシッポ、を、羨ましそうに見つめるニューイ、を、一緒に行きたそうに見つめるカラダ。

 謎の連鎖にツッコミを放棄した九蔵だったが、とにもかくにも、二人と一匹はカメさんズを避けつつウサギ探しをしていた。


「って言っても、実質振り出しに近いな……」

「そうかい? 物語も判明して歪んだ部分もわかったことだし、ウサギさんを探せばこの物語は正常になりそうだぞ」

「ニューイの言う通りさ~! というか俺っちたちがぶっ飛ばされて混ざったせいでもあるのさ。カラダが不思議の世界に戻ったから、ちょびっとはマシになると思うさ~。あ、俺っちはカラダの一部さ! 問題ないさ!」

「まぁ、はい。そうですね」


 ボジティブ悪魔とノーテンキ毛玉の言い分に、九蔵はふんわりとした肯定を返して歩く。

 ドライで堅実な九蔵としては、ちっとも安心感がなかった。
 
 そのウサギがどこにいるかわからない。
 もしウサギがどこかの世界にぶっ飛んでいたら? もしウサギ自体が歪んでいたら?

 そもそも見つかる気もあまりしない。

 なんてったってこの物語の登場人物は審判のキツネがちょろっと出るだけで、あとはひたすらウサギとカメのみ。

 不思議の国のように情報を集めて白ウサギに会いに行くには、手掛かりがなさすぎる。

 しかし、九蔵はノットリーダー気質だ。

 グループ活動における自分の意見の優先度は低めで、根っからの個人主義。自己主張下手くそ芸人。

 さらに愛するニューイがいいなら否とは言えない好感度贔屓な男である。前途多難な旅すぎた。

 カメさんズに見つからないよう山近い岩場付近を歩いているものの、原作に岩場など出ていない。マズイ。むしろゴールからズレているような気さえしてきたぞ。


「どっかからひょっこり出て来てくれませんかねぇ……なーんて」


 そうして九蔵がため息交じりに都合のいい願望を口にした時。


「──頼もぉぉぉぉぉぉうッ!」


 不意にすぐそばの岩陰から九蔵たちの目の前に、ピョコンッ! と砂色の塊が飛び出してきた。

 おい嘘だろ現実。なんか来たぞ。

 九蔵の表情がスンッと無になり、瞳から光が消える。

 ニューイとシッポはポカンだ。悪魔王の粋な計らいにより悪意のある悪魔は九蔵を認知できないため、危険がないとわかっているせいだろう。

 それに気づいているのかいないのか、砂色の塊はぴょこん! と長い耳を立て、短い丸尻尾をピコピコと震わせた。

 そして三歳児くらいの背丈をしゃんと二足で支え、毛むくじゃらの手足をコミカルに振る。


「某、ウサギと申すものでござるッ!」
「でしょうね」
「なぬっ!?」


 もはやツッコミを入れることすら面倒な九蔵の目の前で、砂色のウサギ(おそらくオーソドックスな野ウサギだろう)はガビョン! とコメディチックに驚いて見せた。




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