上 下
357 / 462
第八話 あっちこっちトラベル

15(side澄央)

しおりを挟む


「オレ傷ついてない。アリス教えてくれた。ナス思ったこと言う。なにも気にしない。無視されないは嫌い違う。オレ嬉しい。クク……嫌い違うは好き思うから。わかる?」

「あー……わかるような、わかんねーような。でも確かに俺はビルティ好きスから、ココさんの言うことは合ってるスね。流石ココさん。さすココ」

「! ナスオレ好き。オレナス好き。両想い。よっしゃー」
「ウェーイ」

「付き合う?」
「いや付き合わねッス」
「尻尾キレそう」


 澄央仕込みのよっしゃーのポーズを取っていたビルティは、すぐに両腕を下げてベロンと舌を出した。

 不機嫌になったようだ。トカゲは拗ねると尻尾を切ろうとするらしい。

 なんて捨て身の不機嫌アピールなのだろう。そう思うとなんだか笑えて、澄央は「わはっ」と声を上げた。


「!」
「俺のウェーイ無視したくせになんで突拍子なく交際宣言? 意味わかんねス。くくっ……マージで愉快スね、ビルティは」


 口元に手をあてて笑う。
 妙にツボに入ってしまった。

 澄央にとって男との真剣交際は一大事なのだが、冗談を言いそうにない男から脈絡なく冗談を言われると予想外過ぎておもしろい。

 ビルティはなんというか、ストレートな正直者だと思った。

 ニューイとは違う意味で真っ直ぐな気がする。自分の欲望に素直という意味だ。表情とテンションが全く追いついていないが。

 自分よりマイペースで自分よりあけっぴろげな相手に、澄央は初めて出会った。

 散々クスクスと笑い尽くした澄央は、ポカンとこちらを見つめているトカゲの緑の頭にポンと手を乗せる。


「!!」
「ま、ナイーブじゃねーならいいス。仲いい相手なら性格から考えてなんとなく察せるけど、本来俺は察しがよくねーんで。ビルティのことはまだあんまわかんねス。だから、もっと仲良くするッスよ」


 わそわそと髪を揉む。
 ふわサラの髪は触り心地がいい。

 抵抗しないので好き勝手に揉んでいると、ビルティはバッ! と両手を上げた。

 よっしゃーのポーズだ。
 仲良くしてくれるということだろう。たぶん。いいように取っておけ。

 無言でせせら笑いながらよっしゃーのポーズを取るトカゲイケメンは、実にシュールである。


「んじゃ行くス。ハラペコス」
「ハラペコ一大事。な?」
「大正解。気分的にはパン系が食いたい。酵母を寄越せ。ビルティはサンドイッチなにが好きスか?」
「ククッ。チキン。オレ鶏肉好き」
「ならテリヤキスね」
「日焼けしたドードー鳥」
「存じ上げねぇけどうまそうス」


 トコトコと歩みを再開しつつ、二人はのんびりと雑談に戻った。

 ツッコミ不足の珍道中は、意外と平和だ。

 内心で九蔵に親指を立ててみせる澄央だが、九蔵がここにいたなら「ツッコミどころしかなかった。が、平和ならもういいです。はい」と虚空を見つめながら下手くそな笑顔で親指を立て返したことだろう。

 そうして澄央の嗅覚を頼りにマイペースコンビが歩いていくと、少し開けたところに建物があった。

 澄央の目がキュピンと輝く。
 ビルティはコテンと首を傾げる。


「お菓子の家スかッ!」
「や? コレ旅立ち屋」


 もしくは主に武器屋だ。

 滅多にテンションの上下が表に出ないはずが思いっきり声をあげて両腕を空に掲げた澄央に、ビルティが訂正を入れた。

 しかしビルティの訂正など、このハラペコ帝王・真木茄 澄央には関係ない。

 食いしん坊が一度は夢見るお菓子の家。
 衛生面が気になるドリームハウス。

 それが目の前にあるというのに、名称など気にしていられようか。──答えは否! 否である! 声を大にして否である!

 澄央は心の中で万歳三唱を唱えた。

 しかもここはゲームの世界じゃないか。地面と接しない部分や雨風をあまりうけない部分なら、現実的に考えても問題ない。

 消費期限さえ切れていなければ喜んでかじろう。いいや、切れていても多少はかじる。


「ってことはこの世界、ヘンゼルくんとグレーテルちゃんの世界ッスね。元ネタ解明。進捗よいです。食います」

「アリスいない。ナス止まらない。オレなにも言うまい。仕方ないね?」


 空腹時の澄央は、ママにしか操れない。

 心得ているビルティはアメリカンスタイルでやれやれと肩を竦め、ここにはいない九蔵に仕方ないのだと言い訳をした。多少惚れた欲目もあるが、それは澄央の知らない話である。

 真顔のままキラキラと瞳を輝かせる澄央は、意気揚々とお菓子の家に近づく。

 確かに〝旅立ち屋〟と表札があった。
 ノープロブレムだ。知らんぷりしよう。

 とりあえず外側は衛生面が心配なので、澄央はコンコンコンとドアをノックする。


「頼もーう!」
「おぎゃんッ!?」


 それからコンマでドバンッ! と開いた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる

KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。 ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。 ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。 性欲悪魔(8人攻め)×人間 エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件

水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。 そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。 この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…? ※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)

淫紋付けたら逆襲!!巨根絶倫種付けでメス奴隷に堕とされる悪魔ちゃん♂

朝井染両
BL
お久しぶりです! ご飯を二日食べずに寝ていたら、身体が生きようとしてエロ小説が書き終わりました。人間って不思議ですね。 こういう間抜けな受けが好きなんだと思います。可愛いね~ばかだね~可愛いね~と大切にしてあげたいですね。 合意のようで合意ではないのでお気をつけ下さい。幸せラブラブエンドなのでご安心下さい。 ご飯食べます。

アオソラ診察室

No.26
BL
【R18】 ワンコ気質で無自覚変態なイケメン攻め(職業:医者)と、ツンデレで性欲強い可愛い系の受け(職業:医療事務員)が、いちゃいちゃあまあま時々もだもだする話。

処理中です...