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第八話 あっちこっちトラベル

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  ◇ ◇ ◇


 食事が終われば、レッツ遊戯室。

 二足歩行にいまいち慣れないビルティに連れられ、悪魔王が用意してくれたらしい世界を跨ぐ扉へ向かう。

 もちろんお弁当も作った。借りっぱなしの重箱二つ分。一つは澄央一人用だ。

 流石、胃袋ブラックホールは伊達じゃない。おそらく無人島に漂着したなら真っ先にダウンするだろう燃費の悪さだと、九蔵は思う。

 食に頓着しない九蔵は地べたの葉っぱも渋い顔で食べられるので、そこそこ生きていけそうだ。となるとビルティはトカゲなので虫すら食べる。サバイバル能力は一番高い。

 ビルティには澄央から離れないようにしてもらおう。澄央単独では遊戯室で迷子になり、行き倒れバッドエンド待ったなし。

 九蔵は密かに考えておく。

 用意周到な九蔵は、一応ズーズィ……だとおもしろおかしく引っ掻き回される可能性があるので、比較的マジメなドゥレドに頼んでニューイにメッセージを送ってもらった。

 万が一、帰宅するニューイと入れ違いになった時のためだ。事の次第は共有しておいたほうがいい。

 悪魔王がビルティに協力してくれたとあって、ドゥレドは真顔でニューイにメッセージを送り、その旨をくねくねとしなを作りながらハートだらけの文面で悪魔王にも伝えていた。

 よし、これでいいだろう。
 本来九蔵は、トラブルとは無縁な男なのである。備えはあるだけ憂いなし。石橋は叩きながら匍匐前進する。

 しかしなにかと不幸を呼び寄せるので、結果的に人間の身でありながら悪魔の世界で冒険をするはめになっているわけだが。

 閑話休題。

 そんなわけで愉快なパーティーは、コソコソと悪魔城の遊戯室の前へたどり着いた。

 念のために人間コンビは仮装している。
 オタク趣味で集めたジェジェの岩仮面をかぶっただけだが、ないよりはマシだろう。

 準備万端。

 いざ尋常に! と扉を開けようとした時──突然、パタパタと唇からコウモリの翼が生えた謎の生き物が九蔵の前にやってきた。


『クゾウ』

「え。悪魔王様、ですか?」

『うむ』


 なんと、唇コウモリは悪魔王の通信機だったらしい。

 どういう仕組みかはもう聞く気にもならないが、若干気持ち悪い上にどうしていいのかわからない。

 一応ビルティと澄央を伺うと、二人揃ってどうぞどうぞと一歩下がられた。薄情者たちめ。

 悪魔王の声に合わせてパクパクと動く唇を微妙な表情で見つめていると、唇コウモリは『そう身構えるな』と言う。


『事情は知っておる。そのハイセンス仮面は要らぬよ。ビルティに使わせた扉には、害意のある悪魔、及び人間には姿が見えない呪いをかけてある。スナック感覚で食われたりはせん。我が預かろう』


 それはもっと早く知りたかった。

 九蔵と澄央は無言でスッと仮面を外し、唇コウモリに預ける。仮面を受け取る唇コウモリ。これを言いに来ただけなのだろうか。

 九蔵がそう言うと、唇コウモリは『そうではない』と唇を横に振る。


『クゾウ、すまぬ』

「え?」

『実は、ついさきほど……全身複雑骨折状態で白骨死体となっておった悪魔を一匹、逃がしてしまった』

「えッ」

「──九蔵おおおおおおおおッッ!!」
「ゴフッッ!!」


 唇コウモリが言い切った瞬間と、翼をはためかせミサイルのごとき勢いで背後から飛びかかる悪魔が九蔵に抱き着いた瞬間は、ほぼ同時だ。

 ガバドォンッ! と回避できない衝撃に腰をやられた九蔵は、抱きしめられたまま数メートル前方へ吹き飛んだ。


「ちょ、まッ」

「九蔵九蔵九蔵九蔵九蔵九蔵九蔵九蔵」

「ぐぅえッ」


 絞殺寸前の九蔵は、自分の名前を連呼されてもなにがなにやらわからない。
 廊下に激突する前に抱かれたまま空中で確保されたが、目玉がクルクルとうずをまいて脳内にハテナが乱舞する。

 そんな九蔵を両手足を使って抱きすくめ、翼も尻尾も使ってグネグネギュウギュウと全身全霊しがみつくミサイル。


「酷いである酷いである二週間なんて聞いていないであるエクソシスト協会はいったい私の審査になにを手間取っているのかわかりゃしないのだ私は九蔵と一緒にいたいだけだというのに悪さなんてとんでもないというのにあぁぁぁ九蔵の体臭と魂の匂いだあぁぁぁちょっと痩せたな不健康な痩せ方なので食事と睡眠をサボっていただろういけないないけないいけない九蔵も愛しているあぁぁぁ九蔵九蔵九蔵九蔵九蔵九蔵九蔵九蔵」


 お察しの通り、かろうじて人型を保ってはいるものの悪魔要素がびょんびょんと飛び出している逃亡悪魔──ニューイであった。

 なお壊れ気味である。
 壊れ気味というか、瓦礫である。




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