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第八話 あっちこっちトラベル

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 ──時は遡ること、本日の朝。

 夜勤を終えた澄央は、朝の川沿いの道を一人シャカシャカと自転車をこぎながら進んでいた。

 通勤時間のピークを過ぎたころなので、車通りは多いが人気は少ない。


「ふんふんふーん。ふふんふん」


 見晴らしの良い川沿いを爆走する澄央。今日も今日とて真顔だが、鼻歌は絶好調だ。

 ステキな新妻先輩からまかないメシを持たせてもらったこともあり、気分は上々。帰宅後、速やかにハラヘリ虫へ与えよう。


「ふーふふふー……ん?」


 しかしそうしてゴキゲンにシャカシャカと自転車をこいでいると、ふと、橋げたのあたりになにかが丸くなっているのが見えた。

 キキッ、と自転車を止める。

 邪魔にならないようはじへ寄せ、澄央は河川敷をサクサクと踏みしめ丸くなるなにかに近づいてみた。


「……トカゲ?」


 そこにいたのは、トカゲだ。
 とぐろを巻く長い身体はウロコに覆われ、冷ややかそうだった。

 よく見るとちんまりと足が生えていた。濃いめの緑が草に擬態している。
 それのおかげかうまく隠れていて、目ざとい澄央でなければ通りすがりには見つけられなかったかもしれない。

 澄央はトカゲのすぐそばへ行き、その緑の髪をトントンと控えめに刺激してみた。


「……ハッ!」

「あ、起きたスか。おはス」

「お? おはよう。なに。誰」

「真木茄 澄央ス。親しい人にはナスって呼ばれるんスけど、ナスは嫌いス」

「ナス。肉詰め。マーボー。お漬物」


 ハスキーボイスのトカゲ。単語を繋ぎ合わせたような話し方でしっかりと返事をする。どこにもケガはしていないらしい。

 目元が隠れる長い前髪の隙間から、爬虫類っぽい切れ長の目が覗く。

 不健康というにはくすみ過ぎている灰色の肌に、ところどころウロコに浸食され細身だが引き締まった上半身。


「オレ、ビルティ。アリスどこ?」


 それは確かに、トカゲだった。


  ◇ ◇ ◇


 澄央はアリスを探しているのだと主張する言葉足らずなトカゲ──ビルティを、とりあえず我が家に連れ帰った。

 なんせ下半身が割と長く、大きめなトカゲである。

 人目を忍んでつれて帰るには苦労したが、珍獣ハンターにハントされるよりはだいぶいいだろう。

 世の中は持ちつ持たれつ。
 自分に余裕がある時は、余裕のない人を助けることは当たり前なのだ。

 それが人でもトカゲでも、という大雑把な澄央。友人たちが悪魔なので、澄央はファンタジーに慣れていた。

 野宿をしていたらしいビルティにシャワーを貸し、ボサボサダラダラな長い髪を適当にジョキジョキと切ってやる。

 ドライヤーをカチ、と止めた。
 軽く髪を手で整えてから、澄央は正面からビルティを眺める。


「……ワーオ……」

「ナス、ワーオなに」


 首を傾げるビルティ。
 パチクリと瞬きをする澄央。


「ビルティ、ダーク系イケメンッス。ありがち展開。しかし自分の身にふりかかるとボーナスタイムだなこれ」


 髪を切って顔がよく見えるようになったビルティは、イケメンであった。

 澄央は真顔でパチパチと拍手を送る。
 サッパリとしたサラサラの髪に切れ長の瞳。尖った鼻梁と滑らかな肌。優雅な仕草と薄ら笑いがダークなオーラを醸し出している。

 九蔵の愛する正統派イケメンでも澄央の愛するインテリイケメンでもないが、ビルティはキレイな男だ。

 ドストライクじゃなくとも、割と好みのイケメンだ。うむ。割と好み。ついでにビルティは上裸なので、若干ムラムラした。


「撮影会していいスか」

「なんで撮影会?」

「イケメンを前にした人間の常識ス」

「へぇ。イケメン。オレイケメン。ウロコつやつや、胴長。太。な?」

「? そッスね」

「ククク。尻尾撮れ。とぐろ巻く撮れ」

「あぁ、トカゲの美醜ってとぐろの美しさなんスか。把握」


 許可を取った澄央はスマホを取りだし、パシャパシャと撮影会を始める。
 ダーク系イケメン。よきかな。




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