上 下
337 / 462
第七.五話 女たちとオ・ト・コ

01

しおりを挟む


 ──うまい屋・早朝。
 夜の仕事人たちの来店時間を過ぎて支度を終えた頃。

 モーニングの時間帯に入ったばかりの朝六時から七時過ぎくらいまでは、来客が少ない。この時間は、朝までバージョンの夜勤と朝勤がニアピンする時間だ。

 そしてうまい屋朝の顔と言えば──麗しき女性陣である。


「男の人って、どうしてすぐ自分の失敗をヒミツにするのかしら? よけいなことはストレートに言ってきて『女みたいにコソコソするよりハッキリ言ったほうがいいだろ!』とかドヤ顔のくせに、言ってほしいことは言わないのよ。お小遣いなくなっちゃったなら言えばいいじゃない。もうっ、そこに男も女も関係無いでしょっ」


 一人は、美園 夕菜。
 通称・ミソ先輩。

 朝勤パートのリーダーだ。
 黒髪艶美人だが、中身はマイペースな人妻。誰とでも分け隔てなく接する。

 本日は出勤前に朝食を食べるべく、うまい屋のカウンターに座っている。


「そうねぇ~? ハッキリ言うのはまぁアタシもそう思うわ。でも男のハッキリ言うは、ただの無礼な時があるのよね。女が男からするとマイルドな言い方をするのは、それが礼儀だから。初対面の人に〝あんたブスね〟とは言わないでしょ? イチイチ喧嘩するなんてめんどうじゃなぁい。それがわかんないとこがカワイイとこでもあるケド」


 もう一人は、キューヌ。
 通称・キュウちゃん。

 最近入店した朝勤の新人である。
 ダイナマイトボディのセクシー美女だが、恋愛脳の食虫植物系リアル悪魔。

 同じく朝定食を食べるため、同居人にせがんでうまい屋にやってきた。


「お願いだとかゴメンだとか、言えば済むことを言わないのはプライドだろうな。男なりに大事なもんなんだよ。たぶん。ま、私は男のヒミツにも男のプライドにも興味ないけどね? 女の子なら話は別」


 そしてもう一人、増尾 榊。
 通称・シオ店長。

 オールマイティシフトな仕事の鬼だ。
 凹凸の少ないスレンダーハンサム美女だが、女性に甘く隙あらば口説く肉食系ハンター。

 言わずもがな、同居人にせがまれ付き添い、朝定食を食べている。


「…………」


 そして最後に、個々残 九蔵。
 通称・ココちゃん。

 ただの童貞フリーターである。
 強いて言うなら彼氏が悪魔だ。

 夜勤の九蔵はここにはいたくなかったが、あがり時間までもうしばらくあるため、突然やってきた美女三人組のガールズトークから逃げられなかった。

 女性が集まると姦しい。
 それがどこだろうと、たちまち女子会に早変わりする。

 しかし抱かれるオンリーであるものの、九蔵は生物学上、サイズ、顔つき、性格など全てが男だ。

 女子会に混ぜられても困る。

 もちろん男の行動についてトークされても困る。いたたまれない。


(つか、男の俺に男の話を聞かせていいのか? 俺がいたら言いにくくなるんじゃねーか? あれだったら事務所に引っ込んどくけど、そこんとこどうやって切り出すか……)

「ココちゃーん」
「おいココ」
「ツマミちゃぁん?」

「はい。個々残 九蔵です」


 むしろ呼ばれた。
 内心オロオロと気遣おうとしていた九蔵は、この三人が誰一人自分を男として見ていないことを察し、ひっそりと涙した。

 というかそろってかわいらしいあだ名(非公認)で呼ぶのはやめてほしい。

 さりげなく訂正してみたが、効果はなかった。酷い。クゾウという名前は、なかなか男らしいはずなのだが。


「どうしました?」

「この際だから男の子に直接聞いてみようってなったんだけど、ココちゃんはどう思う? 男の人の気にするところって、私にはよくわからないのよ~」


 よかった。
 一応男だとは認識してくれていた。

 意味は違うがホッと安心した九蔵だが、首を傾げる夕菜の質問に、これはこれで困った。


「男の思考回路ですか……」

「あ! 男と言っても、もちろん個人の意見だからね! 性別で人間をひとくくりにする気はないし、ココちゃんとうちの旦那じゃ似ても似つかないわ~」


 ニコニコと人懐こく笑う夕菜。

 自分なりの答えでいいらしい。
 それならいつも通りなので、相談に乗れそうだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件

水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。 そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。 この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…? ※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)

召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる

KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。 ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。 ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。 性欲悪魔(8人攻め)×人間 エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』

アオソラ診察室

No.26
BL
【R18】 ワンコ気質で無自覚変態なイケメン攻め(職業:医者)と、ツンデレで性欲強い可愛い系の受け(職業:医療事務員)が、いちゃいちゃあまあま時々もだもだする話。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

はるを待ちわび、かずを数える

茉莉花 香乃
BL
「遊ぼ〜」いつものようにそのドアを叩く。中から俺を待っていたと喜ぶ声が聞こえた。しかし、ある日突然その声が聞こえなくなる。 ………あれから10年。俺はその声を忘れたいのか、忘れたくないのか…… 他サイトでも公開しています ほのぼのを目指します! おさわりがあります。でも、その先がないので、ギリかな〜と18禁にはしていませんm(_ _)m

処理中です...