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第七話 男たちのヒ・ミ・ツ
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しおりを挟むそりゃあ死ぬだろう。
同じぼっちでも違う。
一人サイコー! 属性の九蔵は放っておかれてもあまり気にならないが、一人サミシー! 属性のニューイは、放っておかれると草臥れる。
陽キャと陰キャじゃ、孤独のストレス度合いが違うのだ。
予想以上に哀れだった。
今後は可能な範囲で、なるべく触られたくない理由を説明することにしよう。
「ちなみに他の理由は?」
「私の愛情表現が言葉だけじゃ足りない肉体言語派で、欲望が大好物の悪魔だということかな。あとは個人の趣味である。ぬいぐるみのように隙あらば抱きしめて、腹やワキや足をムニムニしたい」
「それは我慢しろください」
「なぜ!?」
「だってお前それハラハラじゃなくてムラムラだろがい」
「でも私が哀れであるっ! 禁欲のストレスでスタジオの壁に頭突きをするくらいサンチがピンチなのだよ~っ!」
「それハラハラすんの俺と周りのスタッフさんたちだけな?」
主に不審者的な意味で。
もしくは壁破壊的な意味で。
九蔵の冷静なツッコミに、ニューイはあんまりだ! と頭を抱えた。
というか頭突きをしたのか? なんてやつだ。飢餓状態でデザートと同棲していると、重大なバグを生じるということなのか。
(しかもSAN値とかどこで知ったのやら。お前さん削る側でしょうに、いったいどんなゲームの特訓をしてるんですかね?)
発狂系精神的ダメージの値がピンチだとめそめそとするニューイを眺めながら、九蔵は気が抜けて変な笑みを漏らした。
まぁ、いいだろう。
これでヒミツは、話し合えた。
大人だからこそ。
男だからこそ。
小さなプライドを手放せず些細なことでここまで拗れるわけだが、そのつどこうして話し合えば、きっと長く寄り添える。
「負けず嫌いなニューイ、なんかカワイイしな。……うひ」
ならば、めでたしめでたし。
ひとまずそういうことにしておこう。
意見交換会はそのつど行えばいいのだ。どうせきっとずっと、こうしてニューイと朝を迎えられるのだから。
少し吹き出して、ご機嫌な九蔵はベッドからポンと降りた。
「ニューイ、トイレ借りていいか?」
「うむぅ……? うむ。人間用レストルームならここを出て四番目のドアだよ。四回ノックして返事の後に入るといい。あらゆる老廃物をキレイさっぱりスッキリさせてくれるぞ。腸活要らずだ!」
「的確にありがたいトイレだな……世の女性が這ってでも手に入れたい機能ですよ」
「そうなのかい? 悪魔としてはよくある機能である」
「よくあるのな」
「おっとそうそう。ペーパーは自動補充してくれるのだが、ノックと返事を怠るとペーパーを出してくれないので注意するのだよ」
「的確にありがたくないトイレでもありますね」
トイレの花子さん的なレストルームとは。
礼儀を怠った報復がガチなので、九蔵は気持ちしっかりと腰に巻いたバスタオルを締め直し、アルコール成分の放出に向かった。
──が、部屋に戻ったあと。
『ほんと、だらしねぇな……クク』
『んっ……いじわる、すんなよぉ……』
なにがどうなったのか、フルスクリーン状態で昨晩の酔いどれすったもんだが上映されていた。
オイコラ神様。
めでたしめでたしと言ったじゃないか。
脳内でメンチを切る九蔵は、神の胸倉を掴んで小一時間ガクガクと揺さぶりたい衝動に駆られる。
しかも立体映像だ。
それをベッドで体育座りをしたニューイが、ポカンと正面から鑑賞している。
部屋に入った瞬間、当然九蔵の顔色は、真っ白に血の気が失せてしまった。
白目でもある。
頭の中も純白だ。まるで石膏像のように固まっている。
そんな九蔵、改め石膏蔵の帰還に気がついたニューイが「あっ九蔵!」と声を上げ、興奮した様子で映像を指差した。
「九蔵! 九蔵!」
「…………」
「見ておくれ! 九蔵の服を畳んでおこうとしたらポケットからコトダマが転がってきたのだよ! そしてこの通り、酷いことになっているのである!」
──あぁ、そうだな……酷いことになっているな……現在進行形で。
九蔵と映像を交互に見ながら「私は九蔵にこんなことをしていたのかい……!?」と驚愕しているニューイを前に、九蔵のメンタルは安らかな死を迎えたのであった。
拝啓、コトダマを仕込んだ某悪魔様。
「九蔵! ほら見ておくれ九蔵!」
「男のヒミツは、むやみやたらと暴いてはいけません……死んでしまいます……」
「九蔵ぉぉぉぉぉぉ!」
第七話 了
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