上 下
331 / 462
第七話 男たちのヒ・ミ・ツ

31

しおりを挟む


『く、九蔵……意見交換会……意見交換会を申し込みたい……!』


 わなわなと震えてベッドをポンと力なく叩くニューイに、九蔵はベッドへあがり正座をした。その正面で、大きな体を縮こまらせた悪魔が正座をする。

 頭蓋骨のヒビが稲妻のようだ。
 もしもの話でどれだけショックを受けているのやら。

 やや気の毒に思った。
 なにも泣くことはなかろうに。


『ヒン……ヒン……』

「あのな、もしも話だぜ?」

『ヒィン……わかっているがあんまりだ……わた、私を殺さないでおくれ……!』

「だってお前、恋人への最重要事項セックスじゃねーか。スケベ」

『スケベ!?』


 九蔵に睨まれ、ニューイはカロンッ! と頭蓋骨を飛び跳ねさせて身構えた。

 九蔵は腕を組む。

 強気も強気。最強の九蔵だ。
 昨夜の暴挙で地道なトレーニングも棒にふり、全てゲロった上でハチャメチャに抱かれた九蔵に、守るものはない。


「この際だから、ハッキリ言います」


 フン、と男らしく厳しめた顔を堂々と見せつけ、震える頭蓋骨を見つめる。


「スキンシップに重き置きすぎじゃね?」

『ぐはっ』

「理由ナイショでお触り避けた俺も酷いけど、頑なになんでなんでって触りたがられるとヤリたいだけに聞こえてお前も酷い」

『ぎゃふんっ』

「てか夜中に出歩く理由はなんですか」

『!? ななななぜそれをっ』

「当方二人寝に慣れておりましてね」

『ひえ……』


 言葉を失うニューイ。
 二人寝に慣れると、夜中の起床率が上がってしまうのだ。


『く、くぞ』

「ニューイ」

『あうっ』

「その昔、俺は嘘つきがキラ、……ダメだって言ったよな?」

『あぅぅ……』

「お前浮気しねーのになんで嘘つくんだよ。セックス重視で言えないような夜遊びしてる彼氏に、お触り禁止を嫌がる権利あると思います?」

『ぅあう……』

「つかあんなに脱がせたがってたくせに、さんざ抱いたら上裸程度じゃ無反応ですか。そうですか。フーン? あっそ。じゃあやっぱ初夏までもう脱ぎませんし、しばらく服の下には触んねーでくださいませ」

『ぴっ!?』

「それが嫌なら説明して」

『ぴぇ……っ』

「言いたくてもニューイにはどうしようもない事情があるならいい。まぁ、それでも今日はもう口聞かねーけど」

『え、ぇうあっ、あっ』

「そうじゃねーなら、今すぐ全部説明してください。言わないと……昨日ゲロってニューイが忘れた俺のアレコレ、死ぬまで教えねーですからね? 一生、ヒミツ」

『あぅぁあ~~~~……っ!?』


 強気な態度を押し通すと、言葉を忘れたニューイはヒビを頭蓋骨全体に広げ、ダバーッ! と滝のように泣き出した。

 久しぶりに九蔵に本気で叱られて、とても耐えられなかったようだ。

 あうあうと鳴きながら泣きつつプルプルと首を横に振るニューイの伸ばした両手は、哀れにカタカタ震えている。

 それと同時に黒い翼から一気にバサァッ! と羽が抜けてシーツに降り注ぐ。

 残った骨組みだけがホラーだ。
 その骨組みすらヒビだらけで、今にも折れてしまいそうである。

 翼がハゲるほどショックを受けて喘ぐニューイを前にした九蔵だが、それでも組んだ腕をニューイに伸ばしたりはしなかった。

 強気な九蔵。慈悲はない。


『あ、あう……っう……っ』

「イヤイヤしても許しません。マジでどんだけセックス好きなんだよ……」

『うがっ、が、我慢する、ごめ、あ、お、怒、一生我慢するから、ヒィン……っ』

「いや! 我慢とかはいいですけど」

『ぅあ……っ』

「まぁ俺も好きですしおすし。嫌ではないです。なので一切しないわけではないです。若干、若干体目的感がつまらんだけで。うん」

『やはりお、怒って……? く、くぞうに怒られると、世界滅亡……ヒンヒン……っ』

「別にこれはあくまでも意見交換会なんで! いいからとっととシャキっとしてください。はい。お話しましょう」

『でも、れ、レスは別れの秒読みだと……っヒン……九蔵は私と別れ』

「いやいや基本はいいから! 基本は! てか初夏になったらいいから! 別に悪いとも言ってねーしな? 思うところがニョキニョキあるだけで、基本はレスじゃねーから!」

『ほ、ほんとうかい?』

「はい。別れるとか一生ノーセックスではないです。わかったら説明しろください」


 強気なのは態度だけだった。

 言いすぎて泣かせてしまったことで嫌われる可能性を考え、結局ちょこちょこフォローを入れる九蔵。

 ニューイは気づいていないが、裏の〝万が一にも破局ルートはナシで平和的解決をッ!〟という下心が見え見えである。

 コラそこ。やっぱり惚れた弱みの致命傷は不治の病じゃねーかとか言うな。

 自覚症状しかないのだ。
 九蔵さんはなにかともうダメである。




しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた

羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件 借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

朝目覚めたら横に悪魔がいたんだが・・・告白されても困る!

渋川宙
BL
目覚めたら横に悪魔がいた! しかもそいつは自分に惚れたと言いだし、悪魔になれと囁いてくる!さらに魔界で結婚しようと言い出す!! 至って普通の大学生だったというのに、一体どうなってしまうんだ!?

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...