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第七話 男たちのヒ・ミ・ツ
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しおりを挟む思い出すのは、いつぞや交際後のフレンズ感謝会で飲んだくれた翌朝のこと。
『お前さん、性格変わりすぎじゃないですかね……』
『? 変わっていないのだよ』
『覚えてないだけだろ』
『うーむ……覚えているところもあるが、変わっていないと思うぞ? 私は生まれついた時、ほんの十数年はあんな話し方だった』
『え』
『だけど悪魔の生き方に疑問を抱いてからは人間を観察してね。物腰の柔らかい人間の話し方を真似たのである! それが今は板についているだけさ。酔うと話し方が戻っているような気はするけれど、性格は変わっていない』
『えぇぇ……』
『ムフフ。私は酔った九蔵も性格が変わったわけじゃなく、拗らせたシャイと常識と遠慮と建て前などが爆発四散しただけとみている!』
『そこ正解しないでくださいませんかねぇ……!』
だいたいこうだった。
もう少し言い方と言葉のチョイスをシラフの九蔵向けにしてほしい、と内心で唸った苦い気分をも鮮明に思い出せる九蔵だ。
完全にキレイさっぱり記憶喪失になるわけじゃないが、九割は虫食いになる。特に音声はほぼ忘れる。
そして食われなかった記憶をなぞっても、本人は特に違和感を感じていない。
対して特に記憶が消えない九蔵はいつも鮮明に恥ずかしいので、なにがあったと聞かれると困るだけだろう。
「逆に、どこまで覚えてますか」
「ふんわりである……カントクと飲みに行ったことと、ズーズィと話した……かな? そしてなぜかカントクを置いて私は飛び、状況を考えると九蔵と合流したらしい。あぁ、なんとなく抱いていたことは覚えているとも。しかし後半は特に曖昧だよ」
「詳細は?」
「まったく」
指折り数えていた手をフリフリと横に振るニューイに、九蔵は無言で眉間を押さえた。
コノヤロウ。
人がせっかく恥知らずボディを晒したと言うのに、都合のいいところだけ覚えているとはなにごとか。
なんなら今なお裸体を晒しているのだが、ニューイはノーコメントである。
悪くはないが、複雑な気分だ。
別にわざわざ話題に挙げられても困るけれど、ひととき、ひととき〝コイツまさか本気でとりあえず抱きたかっただけじゃねーだろうな?〟と勘繰る。
もちろん九蔵とて理解はあった。
愛があればオーラルでもオーケー! とは限らない。性欲の強さなんて生まれ持ったものだろう。淡泊な男の我慢と旺盛な男の我慢はイコールではない。
とりわけニューイは後者だ。
かつ、九蔵を愛しているから我慢していた。その愛は今も衰えていないので、目覚めのキスをできなかったことを大いに嘆いていた。
しかし。しかし、だ。
お触りを拒否されていたからあれだけ拗ねていたニューイが、記憶はさておき散々グチョグチョと掻きまわした翌朝にこうもスッキリ無反応だと、慎重で察しのいい九蔵としては気になる案件となるわけで。
(……やっぱり、もぐか?)
キュピン、とバイオレンスな閃きを選択肢にあげておくことも、九蔵は辞さない構えとなる。
「な、なんだか寒気が」
「全裸だからです。……まぁそれはあとで解決するとして、ちょいともしも話をいたしましょう」
「ん? よしきた」
「んじゃ──俺がもし『やっぱ今後もお触りされたくねーな』って言ったら、ニューイどうする?」
「オ゛」
煌めく朝の爽やかなイケメンの口から、エグみの強い悲鳴が漏れた。
ルビーの瞳をギョッとひん剥いている。
見るからに死にそうな顔である。
しかも九蔵がまばたきを一つしたあとには、ツノあり骸骨悪魔の姿になっていた。
一言で限界突破したらしい。
筋金入りだ。
『ちょ……え……? な……?』
「…………」
思えば不満で、九蔵はお触り禁止の例ごときで崩壊するニューイをジト目で睨む。
ニューイは昨日の最中だって誤魔化しては、言いたくないとごねた。
そのくせなにも言わずにショックだけはいっちょ前に受けやがるところが、疼く程度にぞっとしない。
どんだけセックス好きなんだ、と。
(この際、シラフの素直なニューイをトコトンまで問い詰めるか……? 俺、朝から羞恥が過ぎて逆に無敵モードだし……)
「よし、殺ろう」
『ぴぇッ……!?』
九蔵は密かに画策した。
いやまぁ、素直なニューイでも頑なに言わず折れずだったから、昨日の夜までギクシャクしていたわけだが。
それは言わないお約束だ。
今すぐケリをつけるべし。
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