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第七話 男たちのヒ・ミ・ツ

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 別に、どうってことはない。

 ただズーズィと飲みながらくっついている写真を送ったところで、ニューイが嫉妬しないと知っているのだ。

 ズーズィとしては九蔵マウントのつもりだが、どちらにせよ効果は薄い。

 ニューイはいつも紳士的であたたかく、あらゆる物事をハッピーに捉える天才だ。

 あんなに感情表現が豊かなのに恥じることなく全てあけすけに伝えるものだから、逆に大いなる余裕を感じる。

 ヤキモチを妬いたって、どうせ「妬いたよ」と唇を尖らせるくらいだろう。

 むしろヤキモチをだしに九蔵を抱きしめ、なんやかんやでイチャイチャとする。
 ニューイのペースは崩れない。九蔵ばかりが照れくさい。乱される。

 もっと、むき出しに。


「……俺さんは、性格悪ぃですねぇ」


 九蔵はチャリ、と胸元のネックレスを指でいじくり、フンフンと鼻歌交じりに口元に運んで舌に乗せた。

 そのまま酒を煽る。
 ゴキゲンだ。ワインの甘みが増す。


「ん~……四六時中キミが~……世界一だよ~……好き好き大好き~……こっちむいてぇ~……あたしだけのお、う、じ、さ、まぁ~……♪ ってか?」


 絶好調に深夜アニメの主題歌を口ずさみつつ、九蔵は手首に着けているニューイお手製の髪ゴムを見つめた。

 髪を縛ると自分じゃ見れなくなることとゴムが伸びるのが嫌で、出かける時は手首に着けている。家にいる時は大事にしまう。

 キザでロマンチックな恋人。
 出会った時から、変わらない恋人。

 その恋人が〝もっと醜くなればいいのになぁ〟と、九蔵は不貞腐れた。

 ニューイはカッコイイからカッコつけなくていいけれど、自分はカッコ悪いのでいつでもカッコつけようとしてしまう。

 つまるところ、カッコつけなければカッコ悪いわけだ。カッコ悪い部分がある証明になっている。

 そのせいで、ニューイに余裕があると、九蔵は酷く不貞腐れた気分になった。

 まぁ、拗ねている。
 割と、最低に。

 甘えられたいのは甘やかしたいからじゃなく、〝あんなにカッコイイニューイにも俺みたいに甘ったれたとこがあるんだよな〟と思いたいだけ。

 ニューイがカッコイイから、自分はカッコつけなければならない。

 だからカッコ悪くなってほしい。
 クソ野郎で、矛盾も酷かった。

 いつもは違う。ニューイには幸せになってほしいのだ。九蔵がクソ野郎だとしても、ニューイのためにならいくらでもカッコつけたいし、頑張れる。

 しかし、そう。しかし。

 極たまにだが、抑え込むことに苦労するほど、激しく、〝ニューイの内側が乱れてしまえ〟と、九蔵は心底祈った。

 もっと醜い感情をさらけ出して、と。
 ないのならないで構わないが、あるのだとしたら胸を引き裂いて引きずり出したい。

 嫉妬して、独占したがってくれ。
 なぜ? 九蔵がそうだからだ。


「ニュぅイちゃぁん……夜中にヒミツの外出~……うひひ。頼られたいのはほんとだけど、全部知りてぇんだぁよ……」


 恋人同士でも秘密があってもいいじゃないか、という一般論。

 おかげで九蔵は物分かりよく秘密を許していたけれど、個人的には違う。


「ふ、秘密で行かねぇで……行ってきますって、行ってってぇ……」


 ──全て受け入れるから、秘密なんてひとつもナシにしてくれ。

 九蔵は空のワインボトルを床に置き、ゴロン、とソファーの上を転がった。

 ニューイには言えない感情だ。
 オタクは推しの全てを知りたい。口は出さないが、ただ知りたかった。

 それから、セックスを拒否する理由も。

 ──触りたいお前に触らせなきゃ、しばらくくらいはなんかの特訓より、俺で頭がいっぱいになるかなってさ。


「俺、ほんとはただの、いじわるしてんだぜ? うひひ」


 しめしめと笑った。
 これも、言えない感情である。

 九蔵はニューイで頭がいっぱいなので、余裕で我慢ができるニューイが恨めしい。

 八つ当たりに近い有り様だ。
 酔っ払いなので許されたい。いろいろと大目に見てくれ。


「んふ……好きってなぁんか、汚ぇの……んで、際限もねぇのー……」


 いけない気分で、九蔵はゴロゴロとアルコールとやけっぱちに堕落していく。

 そんな九蔵の耳へ、不意に「ウゲッ」と苦虫を噛み潰したようなズーズィの声が届いた。




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