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第七話 男たちのヒ・ミ・ツ
07(sideニューイ)
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そんなわけで肉々しい夜勤タイムだったが、その二日後。
夜勤明けで帰宅した日の翌朝のことだ。
「…………」
九蔵の不思議ボディ解消計画なんて全く知らないイケボディマンことニューイは──朝っぱらから、拗ねていた。
ちゃぶ台で待つ九蔵のために二人分のチーズトーストとインスタントスープを用意しながら、ニューイは渋い顔でトースターを眺める。
一応言っておくが、これはニューイだけに非があるわけじゃない。
千歳も超えた大の悪魔が朝っぱらから口元をへの字に曲げている状況はまずまずのアレ感があるものの、一旦置いておこう。
事の発端は昨夜。
九蔵の夜勤明けの夜である。
ニューイはいつものように九蔵を足の間に確保して、テレビを見ていた。
昼間は働いているニューイと朝帰りをしてたっぷり昼寝をした九蔵だが、時間が合えばなるべく共にいる。
そういうルールなのだ。
生活リズムの違うカップルあるあるだろう。
少ない共にいる時間を大切に、コミュニケーションとスキンシップを怠らない。
九蔵とニューイはそう決めた。
にも関わらず最近の九蔵はニューイのスキンシップを避けまくるので……無意識に魔が差したニューイは、そーっと九蔵の服の隙間に手を入れようとしたのだ。
これは仕方がない。
なんと言っても、セックスという意味ならおあずけを食らって半月以上。
男として、恋人と同棲中の身として、魔が差すのは当然と言える。
しかしニューイがパーカーの裾に触れようとした瞬間、九蔵はゲームで鍛えた素晴らしい反射神経でニューイの手をペシッ! と叩き落してしまった。
当然ながら、叩き落とされたニューイはガーン! とショックを受けた。
──もしかして嫌われてしまったのか? そんなバカな! なんでもするから許しておくれ! 嫌いにならないでおくれ!
脳内を余裕ゼロな言葉が埋め尽くす。
それほどしおしおと溶解しそうなナメクジニューイだったが、九蔵がすぐに「あ、ごめん」とバツが悪そうに謝ってくれたので、ニューイは即時復活した。
が、ふと気がつく。
謝りながら、九蔵はさり気なく服のガードを強化しているじゃないか。手足をきゅっと縮こまらせてもいる。
ニューイは不思議に思った。
よく感じると、さり気なく密着するニューイから若干の距離を取っていることにも気がつく。一センチ程度だが大きな距離だ。
『九蔵は私が嫌いになったのかい?』
『はっ? そんなことあるわけねーでしょ。なんでそうなるんだよ』
『むぅ……では私に触られるのを嫌がるなんて酷いである。もうすっかり春なのに。それがダメなら服の上からでもギュッとさせてほしいのだ』
『大変申し訳ございませんが当店ではそのようなサービスは提供しておりません』
『むぅ……せめてバスタイムは共に』
『丁重にお断りさせていただきます』
『むぅ……! ならもうシンプルに服の中へ手を入れさせていただきたい!』
『ご来店ありがとうございました』
『お帰りはあちらかい!?』
平に平にペコリと頭を下げた九蔵の言い分に、ニューイは「亭主関白が過ぎる!」と言ってワナワナと震えた。
九蔵は「やっぱりお前が嫁さんなのな」と言っていたが、そういう問題ではない。
だってニューイは鬼嫁、いや悪魔嫁にならないようゲーム習得、家事習得の特訓をしているというのに、九蔵は淡々とクールに関白宣言。
言えやしないが、やはりスキンシップは欲しいものだ。
けれどニューイが唇を尖らせたところで、九蔵も少し唇を尖らせた。
『あのな、恋人ってもスキンシップだけが愛情確認じゃねーんだし……別にいいだろ? それに普段は俺さんだってバレンタイン以来、頑張ってると思いますよ。キスとか、言葉とか、いろいろ』
『それはもちろん重々承知だ。今だってこうして膝に抱っこしても逃げていないし、私の顔を直視したって表向きは無反応を貫いていると思うぞ?』
『脳内はハッスルしてるけどな』
『だが現実でもハッスルしてほしい私がここにだな……!』
『無理です』
『なぜ!?』
『なんでも』
『ぐぬぬ……! キミの言うことはなるべく叶えたいが、キミを可愛がりたい欲が満たされないと、私としてもこう、欲求不満の悪魔というデンジャラスな生き物に……っ』
『あ、あー……いやまぁ、俺だってお前の言い分はなるべく聞いてやりたいけどさ……今そういうのNGだもんで悪しからず』
『悪しかるのだよ!』
『我慢してください』
『嫌だっ! 一生のお願いだっ! 心ゆくまで可愛がらせてもらうかバスタイムがしたいのだよ~っ!』
『一生のお願いって子どもか! どうせワガママ言うならもっとこう、なんか、もっと違うことでワガママ言ってくれませんかねっ』
『むう? 違うこととは?』
『不健全なボディタッチしねーやつ。お前の俺へのおねだりは今のとこ全部エロ関連だからそれは困る!』
『!? バスタイムは健全である!』
『!!』
『九蔵?』
『…………』
『九蔵~~~~っ!』
とまぁこんな具合で、健全なつもりで誘っていたニューイのバスタイムをエロに繋げた思考が恥ずかしいあまり真顔で黙り込んだ九蔵と、その肩をガクガク揺するニューイ。
で、それっきりだ。
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