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第六.五話 おとぎ話・ハリボテ王子と縁の下のお姫様feat.甘えん坊名探偵with愉快な悪魔様

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 澄央は目からうろこが落ちる。

 九蔵はふーんと興味なく流すわけでもなく好奇心で性癖について掘り下げるでもなく、普通に澄央と話を続けたのだ。

 もちろんわかっている。
 澄央の要求がワガママなのだろう。

 一つの話題への返しや反応は人それぞれで、思っている反応をしてもらえるとは限らないし、返事があるならいい反応だ。

 現に澄央は、中学時代の友人たちと今でも友人である。たまに会う。

 けれど……嬉しかった。


『先輩はバイだからそうなんスか?』

『は?』

『俺的に先輩は謎なんで。卑屈っぽい気がしたのに、負い目とかねー感じス』

『えー、っと、男好きの負い目ってことですよね? ないよ。俺がバイでも誰にも迷惑かけてねーしさ。相手の地雷かもしんないから問題なさそうな人にしか言わないだけで、そこには負い目なんかねーな』

『っ……!』

『え』


 笑うと眉がひそまる。
 口角が歪む。下手くそな笑顔の先輩。

 澄央はガバッ! と両手を真上に上げ、無言でヨッシャーのポーズをとった。

 ──そうだ。そうだとも。

 自分はマイノリティだが、どこにでもいる普通の男なのだ。

 恋の話をしたところでなんら相手の反応を気にする必要はなく、相手もなんら特別な反応なんてしなくていい。

 性癖についてじゃない。
 自分の好みについて聞いてくれ。

 興味なく流すのではない。
 自分の話も聞いてくれ。

 性癖を嫌悪の理由にするのではない。
 自分だからこそのなにかで嫌悪してくれ。

 自分の名前は同性愛者じゃない。

 よく聞け。
 友人たち、同族たちよ。

 ──真木茄 澄央と、お話しませんか?


『……あのッスね』

『はい』

『俺はこう、おもっくそ見るからにイケメンな男が好きッス。あ、イケメンってもゲイ用語的な意味のイケメンじゃなくて、女が言うイケメンス。キラッキラのメンズ』

『うお。マジか……マジか~……』

『その反応。さては先輩の好みもイケメンか美女と見た』

『お前はほんとできる後輩だな……そうですね。はい。美男美女が大好きですよ。どっちかって言うと美男のほうが好きですよ』


 人生初、恋の雑談だった。
 深夜のアルバイト中に、もそもそと雑務を片付けながら話す他愛のない雑談。


『んじゃー先輩は男好きなんじゃなくて、メンクイなんスか』

『まぁ、手遅れの自覚あるくらいにはイケメンに弱いぜ。女性向けのゲームがあるんだけど……ああいう広告に出るキャラは、みんなもれなく性癖レベル』

『ははっ。筋金入りッスね~』

『……。ナスくんって接客スマイル見てる時から思ってたけど、笑うとイケメンだな。普段マジで常に真顔なのにさ』

『お。惚れたスか』

『惚れてねース』

『ガード固いッスわ……じゃあまず呼び捨てでいいッスよ。俺もココさんって呼ぶッス。かわいい名前ス』

『ナス、それ嬉しくない』

『ガード固いッスわ……』


 澄央も九蔵もお互いローテンションなので、妙に話の波長が合った。

 こんなに自分の好みや恋愛事情について楽しく話したのは初めてだ。
 どこか他人と線引きする先輩の内側にも、初めて触れられた気がする。

 恋だろうか? まだわからない。
 わからないが、もっと話がしたい。

 もっと構ってほしいし、できればもっと澄央のありのままを受け入れて、更にできれば気に入ってほしい。端的に、もっと甘やかしてほしい。


『ココさんココさん。女性向けゲームの広告って言ってたスけど、たぶん自分でもやってるスよね?』

『なんのことやら』

『イケメン出るなら俺もやりたいス。エロゲならなおよし。オススメのホモゲ、エロゲを是非。マイン個人で交換希望ス』

『え。えー……あー……うーん……』

『ソシャゲなら一緒にやりましょ』

『……あとで送りますよ』


 コミュ力おばけの澄央にかかれば、順応体質の九蔵に太刀打ちはできなかった。

 さりげなく友達認定。
 恋バナ雑談、気兼ねないフレンドだ。

 しかし頭を覗かれたのかと思うくらい澄央の好みなゲームをオススメされ、ことごとくドハマりするハメになったが……それはそれ。これはこれ。

 そんなこんなで、ソウルメイト。
 なにはともあれ、大団円。




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