295 / 462
第六.五話 おとぎ話・ハリボテ王子と縁の下のお姫様feat.甘えん坊名探偵with愉快な悪魔様
03
しおりを挟むなんせ個々残家の家事は、縁下でほとんど九蔵がこなしている。
それを知ったニューイは絶望的に縮こまるが、澄央はチッチと立てた指を振った。
「あくまでこれは、ココさんの自己肯定感引き出すための情報収集ス。ニューイが落ち込むことないス」
「だけど私はポンコツじゃないか? こういうお嫁さんを、かかあ天下と言うのだろう? 鬼嫁とも言う。悪魔嫁である」
「いやいや。ココさんを舐めちゃいけないス。ココさんは恋愛にはモノグサで、愛情表現も苦手スよね? ニューイのフォローをする自分という状況で、そこを許してもらおうとしてるんスよ。だからなんも言わないんス。喜んでやってるんス。俺にはわかる」
「なるほど……真木茄 澄央が本物の名探偵なんじゃないかとヒヤヒヤするくらい納得してしまった……」
謎の自信を持って頷く澄央の言い分のしっくり感に感心するニューイ。
九蔵はこの不平等さを我慢していたわけでなく、これでいいと思っているからなんとも思っていないらしい。
納得したニューイは、澄央からノートの表を受け取った。
もし九蔵がまた不公平やら足りてないやら言い始めたら、この結果を見せるのだ。十分、いやむしろ逆不公平だと。もっと貢がせてくれと。
ニューイは表を綺麗に折りたたんでポケットにしまい、ぐで、とちゃぶ台に伏す。
「ふーむ……どうやら九蔵は私の恋心の理由に、見当がつかないらしい」
「そっスねー……桜庭なズーズィとデートして告られた時も、〝俺を好きな理由が納得できないので〟ってお断りしてたス」
「筋金入りである……仮に私が生活費と家事の全てを負担していたとしても文句がないほど、私は九蔵にたくさんのものを貰っているのだよ」
「たくさん?」
そう、と頷いた。
顔を上げて澄央を見つめると、自然にニヘ、と間抜けな笑みが漏れる。
「よし、ノロケ話を聞いてほしい。私の九蔵の話は長いと、ズーズィは聞いてくれないのだ」
「バッチコイ!」
「ハラショー!」
流石は盟友。
親指を突き出す澄央に、ニューイは嬉々として親指を当てる。
そう──そうなのだ。
ニューイには、魂を除いて九蔵の好きなところがたくさんあるのだ。
しかし普段からポンポンと吐き出す本心は九蔵を照れさせてしまい、あまりしっかり長々と説明はさせてもらえない。
表面的な言葉だけが九蔵の鼓膜を揺らし、九蔵は理由をわかっていない。
だから不安で愛しすぎるのだろう。
さじ加減が下手くそである。
九蔵は〝なにもしていないのにニューイが好きになってくれたので、ニューイにお得なことをしなければ〟と思っている。
──全然違うよ、九蔵。
ニューイは口の中で呟いた。
「九蔵はね、私に頼らない」
ちゃぶ台に上体を預けていると、シャツの隙間からお揃いのネックレスが零れてチャリ、と鳴く。
「だから私が九蔵を守れなかったり悩みに気づかなかったり、それこそ家事の負担が不平等でも、九蔵は私に〝期待はずれ〟だとは思わない……九蔵は私に、失望しないのだ」
失望されない。
それは期待されていないわけじゃなくて、九蔵がニューイを大切にしているから。
九蔵は常に期待している。
ニューイの失敗が失敗に見えないキラキラの素敵な瞳で、何度も許す。
なにごともチャレンジしては失敗しダメだダメだと言われてきた不器用なニューイは、そんな九蔵が救いに感じた。
失敗を許され、失望されない。
それだけで救われる。
なぜならニューイは真剣に、一生懸命に、失敗するからだ。
それこそ唯一無二と全てを賭して愛した女性と契約することをうっかり忘れるほど、心から失敗するのだ。
九蔵とも、過去に遡ると本当に酷い。
というかドジしかしていない。
プロポーズに必死で、うっかり寝起きのお宅に突撃しあまつさえ玄関ドアを破壊。
家事手伝いをしようとして、うっかり部屋中を破壊。なお現在進行形。
勝手に部屋を出て九蔵とズーズィのお出かけは尾行するし、食べきれないほどの料理を貢ぎ、最終的には割って入った。
遊園地が楽しすぎて暴走。
好きが爆発しかけて独占欲でバカになり、勢いでプロポーズ。
メソメソとしがみついた上に、あの時の九蔵のメンタルヘルスは地獄だったが全く気づかず、翌朝我に返ってオロオロした。
別れようにも踏ん切りはつかない。
しかし泣きながら帰ってきたニューイのダメダメな告白を、九蔵は受け入れてくれた。
夜が明けても考え込むニューイの思考はワンパンで許してくれたし、交際に浮かれてくっつきたがるニューイを鬱陶しがらずにいてくれたのだ。
それら全ての瞬間で──ニューイは九蔵に、抗い難いほど恋をした。
10
お気に入りに追加
283
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた
羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
朝目覚めたら横に悪魔がいたんだが・・・告白されても困る!
渋川宙
BL
目覚めたら横に悪魔がいた!
しかもそいつは自分に惚れたと言いだし、悪魔になれと囁いてくる!さらに魔界で結婚しようと言い出す!!
至って普通の大学生だったというのに、一体どうなってしまうんだ!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる