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第六話 敗北せよ悪魔ども!

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 ──その後のこと。

 翌朝のニューイはモデルの職場放棄の責任を取るため、残した撮影を終わらせてくるのだと出勤した。

 バレンタインデーのモデル逃亡の後始末は、ズーズィがつけてくれたのだ。
 ニューイはズーズィにまたひとつ頭が上がらなくなったことだろう。

 とはいえ、九蔵にご奉仕してもらい朝から手作りケーキを頂いたニューイのテンションは、満開の花畑。

 時期的に寒すぎる初夏の新作も、華麗に着こなす。むしろホットと言わんばかりの爽やかな装いだ。

 オーシャンビューがバックに見えるほど、シャイニングスマイル全開だった。

 しかしそんなニューイの撮影現場をズーズィが九蔵と澄央へ愉快に中継していたことは、ニューイの知らない話である。

 まさか恋人と盟友が部屋でイケメンモデル鑑賞会と洒落こんでいるとは思うまい。

 いやいや、示し合わせたわけじゃないのだ。澄央はたまたまやってきた。

 けれど夜勤前に練習ケーキたちを平らげに来た絶賛テスト明けで長ーい春休み中の澄央は、鑑賞会スタイルの九蔵を発見し、当然のように九蔵の隣に座るわけで。

 そして九蔵は、スムーズに澄央のぶんの菓子と飲み物も用意するわけで。

 更にいそいそとちゃぶ台にオイパッドをセットし、二人並ぶわけで。

 つまり、イケメンは世界を救う。
 そこに言葉はいらない。お互い無言だが、実にナチュラルな連携だ。

 これぞ一見さんお断りコンビ改め、イケメンは正義コンビの協力プレイだった。

 録画はもちろん、スクリーンショットが止まらない九蔵と澄央は、キメッキメの撮影をするニューイの姿を画面越しに堪能し、静かにグラスをチーンと合わせたのであった。

 桜庭モードのズーズィは、画面の隅で腹を抱えサイレントで爆笑していたが。

 閑話休題。

 そんなこんなで素敵な後日談を過ごしたあと、九蔵はうまい屋のアルバイトへ復帰したわけだが。


「アタシは朝勤~」

「オレは夜勤だ」

「「よろしくお願いしますまぁす」」

「…………」


 久しぶりの夜勤として出勤した九蔵は、アガリ時間のキューヌと出勤時間のドゥレドの二人を前に、真っ白く絶望した。

 顎が外れそうなくらいポカンと口を開けて固まる九蔵だが、悪魔たちはガン無視だ。

 異性愛者の男なら誰でもズキュンッ! とハートをやられる満面の笑顔を浮かべたキューヌは、着替えるためにカーテンの裏へ消えていく。

 ガッチリムッチリの筋肉が制服の上からでもわかるドゥレドは、出勤前の声出しをし始める。

 二人はどこからどう見てもただのアルバイターたちだが、紛うことなき悪魔だった。

 カタカタと体が震えてやまない。
 どういうことか説明してくれ。


「シオ店長?」

「……あ~……」


 九蔵はそっと首をひねり、すぐ側で腕を組んでいるスーツ姿の榊を見つめる。

 暗黒面に堕ちる寸前がごときジト目で自分に縋る九蔵を直視した榊は、珍しく後頭部をカシカシとかいて、バツが悪そうに目を逸らす。


「まぁ、その、ココがいない間、キュウちゃんとはプライベートで結構仲良くしていてな……ある日キュウちゃんが、私と契約をしたいだとかなんだとか言いだしたんだ」

「…………」

「私は契約に興味がない。……でもほら、契約しないと、帰っちゃうだろ?」

「……ンン……」

「なのでこう、つい『人としてちゃんと一緒にいられる相手としか付き合わない』とか言ったら、キュウちゃんが頑張るとか言い出してしまって……」

「…………」

「……雇用契約を少々」

「……ンン~……」


 九蔵はなんとなくお察しした。
 榊の話を聞きながら徐々に悩ましく変化する九蔵の表情に、榊は額に手を当て深いため息を吐く。

 やはり正解らしい。
 なんてこったい。

 気持ちはわからなくもないが。いや、わかる。正直めちゃくちゃよくわかる。わかりみがマントルを突破する。


「ちなみに、ドゥレドは……」

「それはドレが働きたがったことと、今回の件で夜勤はもっと増やすべきだとわかったからだよ」

「それだけですか」

「……。いくら悪魔でも、不慣れな人間の世界で一人で働くのは、かわいそうだろ」

「あぁ……」


 九蔵が生暖かい眼差しで榊を見つめると、榊は「察しがいいのも考えものだな……」とより居心地悪そうに目を逸らした。

 落ち着かない様子でボソボソと小声で語る榊なんて、かなりレアだ。

 つまり、なかなか本気だろう。


「シオ店長……悪魔ってマジで悪魔ですからドツボにハマりそうだったら全力で追い出したほうがいいですよ。本気で惚れられたら相当厄介ですし……俺は気がついたら出会って即日同棲してました」

「……実は今うちにいる」

「……あー……そのパターン、ガチなんで……たぶんもう手遅れかと……」

「「はぁ……」」


 九蔵と榊は二人揃って頭を抱え、深い深ーいため息を吐いた。

 ──あぁ、もう。

 惚れたら負けだと言うが、あの悪魔様たちはちっとも敗北者には見えやしない。

 骨抜きにされる前に、いつか一発目にもの見せてやりたいと思う九蔵であった。


 第六話 了




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