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第六話 敗北せよ悪魔ども!

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「な、なんでご機嫌」

「フフ。九蔵が悩みや弱音を吐くと、私は九蔵の隠し事を知ることができてかなりハッピーなのである」

「や、キモイし鬱陶しいだろ? 言い訳とか甘ったればっかで、自己保身しかしてねーし……何回お前に救われても、俺は新しい傷見つけて塩ねじ込むバカだからさ……」

「とんでもない。言ったじゃないか。〝キミの愛し方を私に教えておくれ〟と。キミの悩みは個々残 九蔵のハウツーレッスンだろう? 私は本当に嬉しいよ」

「喜ぶことじゃねーでしょ……? だってさっきの翻訳すると〝こんなに愛されても同じように返せません〟っていうこと、だから」

「だから?」

「っ……だ、から……」


 しどろもどろと、九蔵はこの期に及んで自傷と言い訳が止まらない。しかしあくまで一線を崩さない九蔵の頬を離さず、ニューイは笑顔で「九蔵」と先を促す。

 だから、なんだい? と。


「──……俺、ニューイを不幸にしてる気が、するんだ」


 泣きそうなくらい弱々しく舌の上を震わせて、掠れた声が吐き出す懺悔。

 わかっていたが仕方のない子だ、とばかりに、ニューイは眉を下げて笑った。

 ニューイには九蔵が子どもに見える。
 白いベッドに横たわる病弱な子どもだ。

 誕生日プレゼントはなにも要らないと両親に笑いかけ、自分のためにせっせと働く両親に〝生きていてごめんなさい〟と心で謝る。そんな子どもだ。

 ニューイは親ではないし、これは親心ではなく恋心。

 無償の愛ではないが、九蔵はニューイのもたらす幸せは、無償の愛だと思い込んでいる。気がつかないままに。


「キミは、どうしてそう思うんだい?」

「誰かの恋人になったのが、初めてだから……下手くそだろ? 愛情表現……」

「じょうずだよ。とても」

「うまくない……全然うまくない……」


 ニューイの優しい声に、九蔵は心臓が締めつけられて呼吸が揺らいだ。
 それでもフルフルと微かに、支えられた首を横に振る。

 九蔵は自分がイケメン好きのメンクイの自負があり、シャイな忍びではあるが好きなものへの愛は惜しまないと思っていた。

 しかしニューイは九蔵の上を行く。

 同じように返したくても、フリーターの九蔵には資産がない。自分より金持ちなニューイに安物を渡せるわけがない。

 デートに誘う勇気もない。
 検索履歴やブックマーク。雑誌の付箋やメモばかり増えて、指先一つ伸ばせない。

 セックスは恥ずかしい。
 ニューイを直視することに多少耐性ができたものの、積極性は皆無だ。

 テクニックはもちろん、この貧相な体に自信がない。そそる気がしない。

 せめて小柄で華奢ならよかったのに。もしくはもう少し筋肉があれば。
 どっちつかずでだらしない。骨と皮のみすぼらしい体。ニューイは隅々まで美しい。

 性についていくら調べたところで知識だけが積もり、行動には移せなかった。

 男が喜ぶ仕草に言動? 体位? プレイ? ただし美女に限るのだろう?

 ニューイの故郷にも移住せず、契約もせず、バイトも趣味もやめないワガママな男だ。だから不安で、臆病になる。


「キ、キモイって思わねーでほしいんだけど、俺、お前のためならホントに死んでもいいんだ」

「うん」

「お前のために、拷問とかいくらでも我慢する。そんな想像、結構してさ……リアルに考えても、割とすぐ惜しくないしやれるって思ったのに……」

「うん」

「お前のために、保険は捨てられねーんだ……なんでだろ? やっぱり俺、お前のこと、あんまり愛してねーのかねぇ……」


 九蔵は自嘲気味に笑みを浮かべて、ため息のようになるべく軽く言った。

 重いと思われたら辛い。男のくせに女々しくて嫌になる。ウザったいことこの上ない。わかっている。わかっている。わかっているから許してほしい。

 九蔵がプルプルと震えていると、ニューイは変わりなくニコニコと笑顔のまま、九蔵の額にキスをする。


「フフフ。保険が捨てられないなんて、簡単な理由さ」

「ん、む」

「それは九蔵が、私をとてもとても、とっても──愛しているからである」

「むっ……?」


 今、なんだって?

 ムニィ、と包み込んでいた頬を両手で引っ張られながら、九蔵は笑顔のニューイにポカンとマヌケ顔を晒した。




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